王子様とブーランジェール



『えー!イケメン好きじゃないって、どういうことー?あり得ない!夏輝くんの顔だよ?!』

『…俺が、何だって?』



友達との会話に夢中になってたから、気付かなかった。

私達の真ん前には、いつの間にか、夏輝がネット越しに立っていた。



『き、きゃぁっ!』

『ひ、ひいぃっ!』



突然の襲来に、友達と共に悲鳴をあげてしまう。

ビックリした。

まさかこっちの方に来てるなんて、思いもしない。

あわわ。



『…おまえなー?授業サボってこっちじろじろ見てんじゃねーよ』



夏輝の表情は怪訝で…怒ってるのか、呆れているのか。

そして、ネット越しにベチッ!と私の額に軽くビンタをする。

『いたっ!』

『前転うまく出来ねえんだろ?練習しろや。このバカ』

『ご、ごめんなさい…』

そう言って、背中を見せてスタスタと去っていく。

こ、恐かった…。

おでこ痛いし…。



『今の話、聞かれてたかな…?』

叩かれたおでこを擦っていると、友達が不安そうに私に問い掛ける。

『え?何で?…ほ、本当のことだからいいんじゃない?』

『何か怒ってるっぽくなかった?』

『な、夏輝はいつもそうだから。あまり気にしなくていいんじゃないかな』

『そう?でも、夏輝くん、桃李が前転出来ないの知ってるんだー』

『そんな話、したことないよ…何となく予想つくんじゃないかな』



中学校入学してから、夏輝は雰囲気が変わった。

グッと大人っぽくなったのに加えて、何かちょっと尖った感じ。

…でも、端から見ていると、他の子と話している時は尖った感じはなく、楽しそうな表情を見せる。

あのキラキラとした笑顔も。



私だけ…イライラされているような気がする。



(恐い…)



夏輝が、恐い。

私はすっかり怯えて、萎縮してしまった。



…でも、こんなにビビって怯えているのに。

嫌いになれない理由がある。



それは、結局。

夏輝は『優しい』からだ。







『…あ、もうすっかり暗くなっちゃったね』

『ホントだ…』



10月の始まり。

時計は現在、夜の7時を指している。

すっかり、遅くなっちゃった。



私は後期のクラス委員を引き受けた。

文化委員。

委員決めの際、文化委員がどうしても決まらず、クラスの男子の今井くんに『一緒にやらない?』と誘われ、引き受けることとなった。


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