王子様とブーランジェール

今一緒にいる今井くんは、背もそんなに高くない眼鏡をかけた文化系の知的な雰囲気の男子。

大人の男!みたいな夏輝や理人とは違って、どこにでもいるような年相応の男の子。

優しいし、器が大きい。



先日の掃除中に、水をブシャー!とかけてしまった。

しかし、今井くんは『大丈夫?俺は大丈夫。あはは』と笑って許してくれた。

これ、夏輝だったら…殺される勢いなのに。

それに加えて、天体の話や私の得意な料理の話などでついつい盛り上がっちゃって。

ちょっと仲良しになっていた。



そんな今井くんと委員会に参加したのち、委員会の仕事をしてたら、すっかり遅くなった。



『…あ、もう塾始まっちゃう。神田さん、暗いけど大丈夫?帰れる?』

今井くんは、こんなモブの私にも優しくしてくれる。

それは、今井くんもいわゆるモブのカテゴリーだからだろうか。

モブはモブ同士、仲良く。

『だ、大丈夫。帰れるよ。い、今井くんも塾、遅れちゃうよ』

『送ってあげられなくてごめん。また明日』

『うん、さよなら』

今井くんとは、校門の前で別れる。



すっかり暗くなった。

そんな住宅街の道を一人歩く。

大丈夫とは言ったが、人気のない暗がりの住宅街はちょっと恐い。

比較的明るい商店街に辿り着けばちょっと安心するんだけど…と、思いながら、早足で歩いた。



『…桃李?』



静かな暗がりの中、名前を呼ばれてビクッとさせられる。

恐る恐る後ろを振り向いた。



『…あ、夏輝』



そこには、学ラン姿に学生カバンを肩にかけている夏輝の姿があった。



『…桃李、おまえ!こんな時間に何やってんだ!』

そう言いながら、夏輝はこっちにやってくる。

ちょっとイラッとしてるのか、ムキになっている。

何で…?

『あ…学校』

『学校?!こんな時間までいたのか!』

こんな時間って、まだ7時だよ。

と、思いながらも物凄い剣幕で来たため、迫力に押されて萎縮してしまう。

『あ、あ、い、委員会…』

『い、委員会?!…おまえ、委員会なんてやってんの?!』

『うん、文化委員』

『は?…文化?…聞いてねえよ!』

え?夏輝に言わなきゃだめなの?

私が委員会やってようが、夏輝には何の関係もないことだと思うけど…。



『文化委員、こんな時間まで残らせるほどブラックなワケ?』

夏輝の口調にトゲが出てきた。イライラし始めている。

『ううん。今井くんと仕事してたらつい遅くなっちゃって…』

『はぁ?今井?…あの眼鏡ヤローか!』

『私も眼鏡ヤローだけど…』


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