王子様とブーランジェール



その笑顔は、あの時と…私のパンを食べてくれたあの日の頃と、何も変わりがない。

どんなに尖っていても、私にイライラをして冷たくしてきても。

夏輝の『優しさ』は、何も変わりがなかった。



…だから、あれだけ冷たくされても、嫌いになれないんだ。



やっぱり、夏輝は『友達』。

困っていた私を助けてくれた、優しい神様のような人。

そして、私の焼いたパンを美味しいと言ってくれた、私の初めてのお客さん。



恐いけど…大事な大事な友達。

だから、なるべくイライラさせないように、私がしっかりしなきゃ。

あの時みたいに、迷惑かけないように。

お荷物にならないようにしなきゃ。




…この時の、夏輝への感情はあくまでも『大切な友達』で。



恋愛感情の欠片もなかった。

夏輝が何人彼女を作ろうが他人事。

それどころか、興味のカケラもない。

私が恋愛というものを理解していなかったっていうこともあるけど。





しかし、更に時を重ね、私の気持ちに変化が現れることとなる。


『恋愛感情』を自覚する日が、訪れるのだった。





それは、中3の夏。




…夏輝とあの里桜ちゃんが、恋人同士として付き合い始めたのが、きっかけだった。










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