王子様とブーランジェール
そんな感じで迎えた修学旅行。
二日目の自由行動には、なぜか…昼前に夏輝が単身でひょっこりと私達の前に現れた。
よほど、小籠包が食べたかったのだろうか。
しかし、私達は秋緒とも合流して共に行動している。
所々、二人のケンカは絶えず…。
『…てめえ!こんなに大量にシュウマイ買ってんじゃねーよ!いくらマリアに頼まれたからって買いすぎだろ!しかも、俺に持てって?…おまえが持て!』
『ご近所にも配ると思って多目に買いました。持てないワケないでしょう。何のためにお金払って鍛えてるんですか』
『…荷物大量に持つために、キックボクシングやってるワケじゃねえ!』
二人のケンカに慣れない萌香ちゃんたちは、圧倒して絶句していたが。
夏輝は、レストランでおかずを取り分けてくれたり、二人に普通に話し掛けたりしていて、『夏輝くんって、本当は優しいし普通なんだね…』と、修学旅行が終わる頃には見方を変えていた。
『…桃李!おまえ、肘気をつけろよ?…あぁっ!醤油!醤油の皿ひっくり返す!』
『絶対迷子になるから、絶対単独行動すんな!』
私には相変わらず雷と小言だけどね…。
でも、萌香ちゃんたちの中では、この小言と雷はすでにネタ化してしまい、夏輝への恐怖心が無くなったことだけよかったと思おう。
だって、夏輝はとても素敵な人。
神様のように凄い、優しくて素晴らしい人なんだから。
こんな私への態度ごときで、イメージダウンだなんて心外だから。
それはそれで、よかった。
そんな感じで修学旅行も無事に終わる。
『桃李ちゃん、おかえりー!修学旅行どうだったー?』
修学旅行の翌日。
学校は休みで、私はお店のお手伝いをしていた。
もう閉店し、イートインスペースや売り場の掃除をしていると、テンション高くお店に入ってきて私に会いにくる。
里桜ちゃんだ。
学年1つ下の、同じ中学の二年生。
家も、うちの一軒挟んで隣に住んでいる。
夏輝や秋緒たちと共に、私の作ったクロワッサンを初めて食べてくれたお客さんの一人だった。
小学校の時はよくみんなで遊んでいたけど、みんな中学生になるとそれぞれ予定が合って、あまり会う機会はなかった。
だけど、5月のゴールデンウィークを過ぎた頃から、ちょくちょくと私のところへ顔を出すようになる。
里桜ちゃん、一人で。
そうして、二人でお喋りをするようになった。