王子様とブーランジェール


桃李の怒った顔…実は見たことなかった。

さっきのムッとした顔、ちょっと可愛かったな。

俺に見せたことのない表情を。

あいつには、見せるのか。



そんなことを考えると、更にイラッとする。




『夏輝のバカ!』なんて言われて叩かれたこと、ないな…。

…あぁ、いつも俺が怒る方だからか。

だけど、あんなにむくれて可愛いんだったら、俺も怒られてみたいかな。

いや、力関係の立場上、そんなシチュエーションにはならないか。




(………)



…く、悔しい!



ちくしょう、松嶋のヤツ。

何で、あんなに桃李に付きまとってんだよ。

何かと桃李を構いやがって。

俺には出来ないことをやってのけて!(…)

目障りだ…!




授業が静かに、先生の声のみが響いて続いていく。

イライラが何となく残りながらも、授業を聞いていた。



しかし、またそこで、松嶋の奇襲が。



ずっと下を向いていた松嶋。

だが、顔を上げ先生の動きを気にしているようだ。

そして、先生が板書を始めるべく、黒板の方を向き、背を向けた。

その時だった。



桃李の方に手を伸ばす。

二つ折りにした紙切れを桃李の机に置いた。

そして、素早く戻り、何もなかったかのように机に向かっていた。



あれは…手紙?



て、手紙?!

松嶋が桃李に!手紙を渡したというのか!

何ゆえ、何の手紙…!



またちょっと、イラッとさせられる。

仲良さげに文通など…!



その手紙を受け取った桃李。

何気なくその二つ折りになった紙を開いた。



「…ぶふっ!」



その手紙を目にした途端に、桃李は吹き出した。



な、何だ?



静寂の中の突然の吹き出し笑い。

クラス中が一気に注目。

もちろん、先生も…。




「神田、どうした?」

「い、いえ…す、す、すみません…」



「そうか」と、先生は特に何も追及せずに授業に戻る。



すると、松嶋が小声で再び話しかけていた。

「そこは『すんませんした』だろ?」

桃李の顔が一気に赤くなる。

「…もうっ!」

またしてもあの可愛いムッとした顔をして反論しているが、松嶋はそんな桃李を見たまま、ニヤニヤし続けている。

そして、口パクで桃李に何かを伝えていた。

ムッとしていた桃李だったが、その口パクを聞くと、表情が緩み、笑いを堪えている。

二人で見つめ合って笑っているのだ…!



…何?このラブラブっぷり!



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