王子様とブーランジェール
『…うん。いいな?…今回も100点。今までの中では最高』
そう言って、母は私の作ったクロワッサンをもう一口かじる。
親指突き立てて見せている。
やった…!
『は、はい!ありがとうございます!』
私の作るクロワッサンに、とうとう100点を貰えた。
あまりの嬉しさに拳を作ってしまった。
これまで、いわゆる食パンや、塩パン、菓子パン系などなどには100点を貰えていたが、母はクロワッサンにこだわりを持っているせいか、クロワッサンだけはなかなか100点が出ない。
だけど、とうとう今日。
合格点をもらった。
嬉しい。
『ま、今日は合格点かもしれないけど、次はわからない。…毎日100点取れるように技術を磨け』
『はい!』
今日はたまたま100点だったかもしれないから、日々精進せよ。との母からの念を押された言葉も頂いたが。
でもやはり、目標にしてきたから、嬉しい。
気分はアガる。
すると、表の鈴が鳴った。
現在は閉店間近の六時半。
パートの山田さんは既に上がっており、私が代わりに接客に出る。
『いらっしゃいませー!』
『よう、お疲れ』
『あ…』
来店したのは、ジャージ姿の夏輝だった。
肩にはチームのスポーツバッグを下げている。
『夏輝、おかえり。今日練習だったの?』
『あぁ。試合の後に練習。あーっ。腹減った。クロワッサンある?』
そう言いながら、夏輝は売り場を覗き込む。
しかし、クロワッサンは本日売り切れ。
あー…。
『閉店間近だし、しゃあねえか。じゃあ塩あんパン…』
『…あ!あるよ!』
『え?ホント?』
クロワッサンならある。
私の焼いたヤツだけど。
『あ、あのね、あのねっ!き、今日、さ、さっき、く、クロワッサン作ったの!わ、わたっ私!』
先ほどの興奮冷めやらぬせいか、思わずどもってしまった。
『落ち着けよ…』
あ。
軽く深呼吸する。
その様子を見て、夏輝は『ったく…』と呟く。
そして、息を整えたのち、もう一度話す。
『…あのねっ!さっき私が焼いたクロワッサン、とうとう100点貰えたの』
『おっ…マジ?そりゃおめでと』
『今あるから、食べる?』
すると、夏輝は『おっ。いいの?』と、嬉しそうにする。
『もちろん!持ってくるから座って!』
初めてのお客さんに、初めて100点を取ったクロワッサンを食べてもらう。
こんなに嬉しいことはない。