王子様とブーランジェール
あわわわ。お、怒られる…。
と、思いきや。
夏輝が『…俺さ』と言いかけたところで、お店のドアがバーン!と開き、けたたましく鈴が鳴った。
『夏輝くーん!』
『げっ…里桜』
鈴の音と共に姿を現したのは、あの里桜ちゃん。
『わぁー!』と声をあげ、あっという間に夏輝の横にやってきて、隣に座った。
『夏輝くん、ここにいたんだー!会えて嬉しい!』
『おまえ…相変わらずだな』
『今日サッカーだったの?ジャージ姿もカッコいい!お疲れさま!』
『あ、そう…』
そう夏輝に話し掛ける里桜ちゃん、どんどん夏輝にすり寄っていって、体の距離が近い。
ミニスカートから伸びる細い足が綺麗だなと入ってきた時に思っていたけど、胸の谷間がすごく開いた服を着ている。
胸、見えちゃう。
で、私のことには目もくれず、夏輝に話し掛けまくっている。
『ねえねえ、今度試合見に行ってもいいー?里桜、夏輝くんがサッカーしてるとこ見たい!』
『別にいいけど、会場、石狩とか夕張だぞ?遠いって』
『えー!でも行きたい行きたいー!』
もう、二人の世界になっている。
それを私は黙ってぼんやり見ている状態となった。
やれやれ。
ただ座っているのも何だから、二人を差し置いて席を立つ。
気付いたら7時が過ぎており、店仕舞いのため、外に出て灯りを消す。
看板を中に運んで仕舞った。
『ねーねー!桃李ちゃん!』
この時点で、ようやく里桜ちゃんは私に話し掛けてくる。
『ん?何?』
『私と夏輝くんってどう?お似合い?』
『…こら!里桜!』
そんなことを言い出す里桜ちゃんを、夏輝は軽くこづいている。
里桜ちゃんは『やだもうー』と、なぜか嬉しそうだ。
お似合いって…。
何でこの子は突拍子もない話をふってくるんだろう。
『こら!里桜!』
『やだもうー!』
二人の仲睦まじい様子を見て、何だか複雑になった。
でも、里桜ちゃんはキレイ系になったし、背が高くてモデルみたいにスラッとしている大人の夏輝とは、雰囲気が合っていてお似合いといえばそのような気がする。
『…うん、そうだね』
思わず、口にしてしまった。
『ホントー?桃李ちゃんありがとー!』
お望みの回答を得られて、里桜ちゃんはご機嫌な笑顔だ。
すると、夏輝がガタッと席を立つ。
『もう店仕舞いだろ?邪魔だから俺達もう帰るわ。パンごちそうさま。じゃ』
そう言って、早々と店を去っていく。
里桜ちゃんは『待ってー』と、夏輝の後を追っていった。