王子様とブーランジェール
『ですが、道内1の進学校に首席で合格するというちっぽけな野望のために、塾にいって、勉強にかまけてしまって…まだ未熟な人間ですみません』
『違う、ごめん…』
『知り合いの卑猥で気持ち悪い話を聞かされていたら、不調にもなりますよ。可哀想に…』
『秋緒…』
『もう大丈夫ですよ。明日から私がここに来るようにします。里桜は近付けさせませんから』
秋緒が助けに来てくれたの、嬉しかった。
でも、ごめん。違うの。
私、卑猥で気持ち悪い話を聞かされていたから具合悪くなったわけではない。
きっと。
…きっと、それは。
よくわからなかった、複雑な感情の正体が見え隠れする。
私、きっと。
…夏輝と里桜ちゃんの話だから、聞きたくなかったんだ。
…それから、翌日に早速、秋緒が夏期講習の帰りに家に寄ってくれた。
春姉ちゃんの高級ルイボスティーを持って。
お母さんに許可をもらって、店仕舞い頃にはイートインスペースで二人で勉強したり、お茶したりした。
その翌日も。そのまた翌日も。
里桜ちゃんを私に近付けさせないように。
すると、そのうち。
メンバーがもう一人増える。
『ちょっとちょっと桃李。何面白いことになっちゃってんの。そういうの早く呼んでくれって』
理人だ。
秋緒が呼んだらしい。対、里桜ちゃんへのディス仲間。
『ちょっとちょっと理人くん。何も面白いことではありません。夏輝くんと里桜の生々しい卑猥な話は、純粋な桃李にはキツ過ぎます。まああなたは経験済みだからなんてことないでしょうけど?』
『秋緒vs里桜、俺も見たかったなー』
『何を呑気なことを言ってるんですか。何なら理人くん。あなたが里桜の話を聞いてあげればよかったじゃないですか』
『女の口からエロ話は聞きたくないねー?男はひくわー』
理人はすでに部活を引退していて、現在は受験に向けて塾に通っている。
この件を面白がったのかは知らないが、秋緒同様、塾が終わったら顔を出すようになった。
結果、三人でイートインスペースで勉強。
『そういや昨日、里桜来てったね。店覗いてて、俺達いるってわかったら入ってこなかった』
『それでこそ私達がいる甲斐があるものです。桃李は守りますよ』
『み、みんな、ごめん…』
『いいのですよ、桃李。勉強も気持ちよく出来て一石二鳥です』