王子様とブーランジェール
ホント、この二人には感謝しかない。
夏輝と里桜ちゃんのことで頭を抱えて、眠れずに夜が終わる。
気が付けば独りぼっち…と、いったところにやってきてくれた。
あれからも、里桜ちゃんはお店の前には来てるみたい。
理人曰く、夏輝がサッカーやジムや塾に行ってて家にいない時に来るみたい。
でも、いつも来るあの時間には、必ず秋緒か理人が夜までいる。
なので、里桜ちゃんとはしばらく顔を合わせていない。
しばらく平穏な日々が続いていた。
…とは、言えず。
『…ゲスカップルは出入り禁止ですが?何か?』
そう言って、秋緒が立ちはだかる。
…お客様として来店した、夏輝の前に。
『…は?はぁ?…クロワッサン買いに来たんだよ!何で俺まで出禁なんだよ!』
『夏輝くんがここにいると、あのゲス女もついでにやってくるじゃないですか。このゲスカップル』
『…だから!それは、パンダフルにはもう行くなって、里桜にはちゃんと言っておいたって!俺、腹減ってんのに!』
『それは私が帰りにパンを買って帰ると言ってるじゃないですか。家にクロワッサンがあるのですから、店に来る必要ないじゃないですか。ご自宅でお食べください?』
『…そういう問題じゃねえよ!』
そう言って、夏輝は秋緒越しに私の顔を見る。
夏輝の顔を見ると、あの卑猥な話を思い出してしまい、思わず目を逸らしてしまった。
どうやら、秋緒は怒りのあまり…あの一件を夏輝にもの申してしまったみたい。
『夏輝くん、あなた!彼女への躾はどうなっているのですか!二人の情事、交尾の内容を事細かく桃李に暴露するようしつけているのですか!もしそうなら死んでください!許されませんよ!腹立たしい!』
そうして、秋緒の勝手な判断で夏輝もパンダフルを出禁にされている。
このやり取り、二回目だ。
入り口付近でぎゃいのぎゃいのと騒ぐ双子。
そのうち秋緒が入り口に置いてあったスズメバチ退治スプレーを持ち出し、夏輝に向けた。
すると、夏輝はしぶしぶ帰っていく。
『…可哀想だったかな』
ボソッと呟くと、理人が笑っている。
『あいつ、きっとそろそろ桃李不足になってる頃だわ…。おもしれー…』
『…ん?何?』
『あ、いやいや。何でも。…で、可哀想って?夏輝が』
『あ…うん』
笑いが残ったままの表情で、理人はふうと息をつく。
『…桃李は優しすぎる』