王子様とブーランジェール
挙げた手の先は震えてる
『豚串2本と鳥串2本、400円になります!』
町内の広い公園で、テントをいくつも張って出店を構える。
大量に炭を起こして焼き鳥やイカを網で焼き、鉄板で焼きそばを焼く。
灯りを保つための発電機の音が、うるさく鳴り響く。
夕方になるとお祭りは始まり、いくつも並ぶテントの中は大忙し。
町内会主催の夏祭り。
商店街町内会ということもあって、商店街の店舗も数々出品をしており、うちのお祭りは他に比べてちょっと大きいお祭り。
他の町内会の人たちもやってくる。
お客様も多いから、売る方は休む間もない。
『桃李ちゃん、ビールひとつお願い!』
『はい、ひとつですね!』
プラコップを斜めにして、サーバーからビールを注ぐ。
八分目になったところで、コップを真っ直ぐにして泡のバランスを取る。
何年もやってると、コツ掴んじゃった。
私も売り子のお手伝い。
うちはお父さんもお母さんもお店が忙しい。
なので、パンダフル代表で私が夏祭りのお手伝いをする。ここ何年もずっと。
無地の赤いエプロンをつけて、大人に混じって接客をする。
たまに焼き鳥を焼いたり、焼きイカのたれを作ったり。
チョコバナナも作る。
普段学校ではドジな私だけど、こういう忙しい接客販売だとスイッチが入り、なぜかうまく集中できてしまい、体が思うように動いてしまう。
働くの大好き。
あれだけ長蛇を作っていたお客さんの列も途切れ、少し落ち着く。
すると、目の前にぬっと現れた。
『…よう』
夏輝だ。
こう面と向かうのは、久々だ。
なぜだかドキッとさせられる。
『あ…いらっしゃいませ』
『久しぶりだな』
『あ…うん』
里桜ちゃんの件で、秋緒を巻き込んで大事にしてしまったから、顔を合わせるのはちょっと気が引ける。
ガタガタ騒いでんじゃねえよと思ったんじゃないかな…。
すると、横で焼き鳥を焼いていたお弁当屋さんの店長の小林さんが『…おっ!夏輝じゃねえか!』と、彼の登場に気付いた。
夏輝は『こんばんは』と頭を下げている。
『そういや夏輝、全国優勝したってな?門さん、すげえ自慢して歩いてたぞ?すごいな!』
『はい。上手いこと行って結果が出たカンジですかね』
『星天FCから全国レベルの選手が出るなんざ、初の快挙だな!あ、北海道勢初の快挙か!』
『いえいえそれほどでも。運がよかっただけですよ』
『いつ帰ってきたのよ!凜は?』
『昨日の夜中帰ってきました。凜は寝てるんじゃないですかね』