王子様とブーランジェール
すると、里桜ちゃんは、私の着けてるエプロンをじっと見ている。
『ど、どうしたの?』
『うわっ。桃李ちゃん、このエプロン汚れてるよ?』
少し嫌な顔をして、私のエプロンを指差す。
炭の燃えかすの灰が所々に着いていたり、さっき小さい子にぶつかられて付けられたアイスクリームの染みだった。
『あ、これ…さっき小さい子がぶつかってきちゃって』
『ふーん。お手伝いも大変だね?里桜にはムリー』
そう言い残して、私からは視線を逸らし、夏輝の方を見て二人の話に参加していた。
里桜ちゃんからの注文を受けた私は、トレイを持って売り場に戻る。
(………)
…何でか、またここで。
また、あの、胸の中の黒いもやもやが登場した。
何でだろう。
…夏輝と里桜ちゃんが、一緒にいる姿を見たからだろうか。
そんな黒いもやもやが立ち込める胸を抱えながら、里桜ちゃんのコーラとフライドポテトをトレイに乗せて運ぶ。
『里桜ちゃん、おまたせ』
『…あ、そこに置いといて!』
里桜ちゃんはそう言い捨てて、夏輝と門脇さんの話をうんうんと聞いている。
私の方には、見向きもせず。
(………)
何だろう。これ。
まるで私、召し使いみたい。
王子様と、王子様の隣にいる綺麗なお姫様の…下僕。
王子様の隣にいるお姫様は、浴衣で綺麗に着飾っていて。
かたや、私は灰にまみれた、染みだらけの汚ないエプロンを着けて、髪も煙でバリバリ。
あんたと私達は身分違いよ、この下僕。
そう言われているような気がして。
(………)
すごく、惨めだ。
その後も、私は売り場に戻ってお手伝いを再開する。
先程のことを頭から振り切るように、黙々と働いた。
夏輝が再び売り場の前に来ていたけど、見ないように背を向けて、焼きそばや焼きイカの仕込みを黙々と行う。
動いてないと、また出てくる。
あの黒いもやもやが。
『桃李ちゃん、少し休んでいいのよ?ずっと働いて…』
『いえ、大丈夫です。疲れてないですから』
私を気遣ってくれた三好さんの言葉が胸にグッサリとくる。
私…何てことを思ってしまったんだ。
みんな、お祭り成功のために汗だくになって頑張ってるのに。
働いた結果のその姿を、召し使いだとか、惨めだとか。
失礼だ。みんなに申し訳ない…!
もう、動いて動いて動きまくる。