王子様とブーランジェール
『桃李、頑張りすぎじゃないですか?』
『…わっ!…あ、秋緒』
売り場の奥で焼きそばをフードパックに詰めていると、秋緒が突然目の前に現れる。
秋緒、中に入ってきちゃった!
お手伝いをするワケでもないのに、ツラッとしてそこに立っている。
『ど、ど、どうしたの…?』
『いえ、もう帰りますので一言挨拶に』
『律儀だね…』
『明日は模試がありますし、お母さんと春姉ちゃんが桃李の焼きイカを家で待っているので、一足お先に帰ります。桃李、あまり頑張りすぎないで下さいね。明日はパンダフル行きますから』
『うん、またね』
用が済むと、秋緒はさっさと帰っていった。
秋緒、鋭いな…。
それから、夜8時には一斉に店仕舞い。
大盛況だったため、余韻を楽しんでいるのか、まだお客さんはそこらに残っているけど、片付けを始める。
焼き台を片付け、炭を処理し、使った道具を洗い、ゴミを片付ける。
重いものはみんなで協力し合って運び、軽トラに積み込んで町内会館まで運搬。
大人の男の人たちは、みんなでテントを片付ける。
テントのお片付けでは、軍手を履いた夏輝が大人に混じってお手伝いをしていた。
『夏輝、いいって言ったのに。でも力あるヤツ手伝ってくれると助かるわー』
『俺でよかったら、なんぼでも使ってください』
私はその光景を遠目から見守る。
軍手をはめている夏輝の姿は、なんかいいなぁと思ってしまった。
けど…お互い顔を合わせたりすることはなく、祭りの片付けも終了した。
片付けが終わった後、スタッフは集合して売り上げの簡単な報告があり、私も大人に混じって集まる。
大人たちはこれからスナックで軽い打ち上げをやるらしいが、私は未成年なのでお断りして帰宅することにした。
『お疲れさまでした』とみんなに挨拶した後、輪を離れる。
『桃李!』
家に帰ろうと公園を出ようとすると、後ろから呼び止められる。
『あ、理人』
振り返ると、理人が手を振りながらこっちに駆け寄ってきた。
『お疲れさま。すげー労働してたな。金もらった方がいいんじゃね』
『何言ってんの。商店街のおじさんおばさんたちには普段からお世話になってるもん。お手伝いしなくちゃ』
『マジメすぎ。労働は金が発生してなんぼなのに』
『大丈夫。余ったジュース貰ったから』
二人で笑い合う。
すると、少し離れたところから『理人ー!』と、大きめの聞きなれた声が聞こえる。
声の方を向くと、凜くんだ。