王子様とブーランジェール


『理人ー!これから公園で遊ばねー?みんないるしさー!ケードロやるべー?』


凜くんの周りには、男子が何人かいる。

私と同じクラスの不良っぽい男子もいる。

その中には…夏輝と、その隣を離れない里桜ちゃんがいた。

里桜ちゃん、私に気付いているのか、じっと私の方を見ている。



(………)



王子様の横には、いつだって。

綺麗な浴衣を着た、綺麗なお姫様。




汚ないエプロンを身につけた、下僕ではない。




(………)



また…。

胸の中に、黒いもやもやが煙のように、立ち込める。

立ち込めれば立ち込めるほど、胸が詰まっていく。

胸どころか、今度は頭にまで立ち上ってきた。




『ケードロ?古っ。マジ?ウケんな。…桃李も遊んでく?行こ?』

『わ、私は…いい。帰る』

『え。何で』

『………』



お断りの返事が、咄嗟に出てしまった。

あの二人がいるところには行きたくない。

そう思ってしまった私は、彼らがいる方向に背を向ける。

『じゃあね、理人。お疲れさま』

『…ちょっと待って』



一歩歩きだしていたのに、制止されて体がビクッとなる。

腕をグッと掴まれた。

『…ん?』

すると、理人は横で彼らに大声で返事をする。



『俺いいわー!お疲れー!』



そう言って、バツと大きく腕で書き、みんなに手を振っている。



『はー?何でだよー?』

『用あり。じゃあなー!お疲れ!』



そう言って、理人は『桃李、こっちこっち』と私の腕を引っ張る。

ガクンと体が揺れた。

『え?え?』

『俺達は俺達で遊ぼ』

そう言われて、あっという間に引っ張られて、みんなとの距離が離れていく。

わわわわ…理人、ちょっと!

『は?理人…桃李と?』

『ま、マジ?』

みんながこっちを唖然として見ていた。



『理人!理人!どこ行くの!』

早足で腕を引っ張られて、どこかに連れて行かれていた。

すると、理人は私をチラッと見て笑う。

『んふふふ。桃李の慰労会しよ?』

『慰労会?』


連れて来られた場所は、公園の駐輪場だった。

『ちょっと待ってねー』

理人は自分の自転車のカゴに入っていた、エコバッグを取り出す。

そして、こっちに持ってきた。

『こっち行こ』

エコバッグを持った理人は、草むらの陰にあるベンチに座る。

そして、エコバッグの中からひとつひとつその物を取り出して、ベンチの上に並べていた。


『こ、これ…』


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