王子様とブーランジェール



「だ、だ、大丈夫…」

「…ん?」

よく、聞き取れなかった。

「大丈夫。一人で行ってきます…」

え…。

桃李、一人で?

「…はぁ?おまえ、大丈夫なの?」

またうんうんと頷いている。

「3年5組、行ってきます…」

「あ、ちょっと待て!」

だが、桃李は俺の制止も聞かず、走っていってしまい、階段を降りていってしまった。

な、何だアイツは。

『一人で大丈夫』って…。



ホントに一人で大丈夫か。



大丈夫…じゃないわ!



「咲哉、ちょっとこれ俺の机に置いといて」

「はぁ?…あ、ちょっと!夏輝!」

持っていたカバンを咲哉に託す。

急いで桃李の後を追った。



昨日今日の話だ。

あのゴリラ、また桃李を威嚇して『眼鏡ブス!』など暴言を吐くかもしれない。それは許されない。

または、桃李が再度、高瀬を怒らせるかもしれない。

または、途中で転んでパンをぶちまけるかもしれない!

または、桃李が3年5組に辿り着けないかもしれない!(…)



いろいろな不安が重なり、やはり着いていくことにした。

3年のフロアは、三階。

四階から急いで階段を降りる。

駆け足で降りれば、ワンフロアなどあっという間だ。

えーと、5組は右だっけ左だっけ…。

キョロキョロと探しているうちに、左の方角に桃李の姿を見かけた。

…あ、いた!

俺がいる位置の二つ向こうの教室を覗きこんでいる。

…そこは5組で合ってるのか?!

ちゃんと確認せねば!



そう思って、足を進める。

しかし。



「あれー?竜堂くーん?」



行く手を阻むかのように、俺の目の前に突然現れる。



出た。

出たぞ…!



しまった。

あまりにも迂闊だった。

ここは3年のフロア。

出現するのは必須…!



「ひょっとして、朝から美央に会いに来てくれたのー?嬉しいー!」



だから、キャラはもう総崩れしてんだよ!

嵐さん!




魔女だ…魔女が突然現れた!



さっきとは逆に。

一歩後退する。



「あ、おはようございます…」



何もかける言葉がないので、とりあえず挨拶だけしてみる。

すると、明らかに不自然な作り物の笑顔を見せながら、俺の方へと迫ってきた。

「ねえー?このまま一時間目、どっか行こっか?二人で?」

「え、遠慮します…」



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