王子様とブーランジェール
夏輝と同じ高校…か。
夏輝は成績優秀。
校内の定期テストも、常に総合二位。
一番は秋緒。双子でいつもトップを争っている。
星天高校は、夏輝にとっては格下のレベルのはずだから、まさかここを受験するとは思わなかったワケで。
はっきり言って、とても複雑な思いが胸の中で蠢いていた。
もし、夏輝と同じ高校に行ければ…嬉しい。そりゃ。
でも…また、中学の時と同じく、雷、小言が続くんだろうか。
あったら切ないし、無いなら無いで寂しい気もする。
今と同じようにいられるのか、そうでないのか。
未来がわからないことが、不安になる。
それに、きっとまた高校でも、夏輝には彼女が出来る。
綺麗な、お姫様のような彼女が。
それを、平常心で見守っていられる?私。
(………)
ううん。そんな風に考えたらダメ。
私はそれを『見守る』しかない。
だって、王子様の隣にはいつだって綺麗なお姫様。
私のような天パ眼鏡ブスではない。
私には…その隣にいる権利すら与えられない。
(………)
違う高校が良かったな…。
そうすれば、お店でしか会う機会はなく。
夏輝の笑顔だけを見ていられる。
そんなことをも、ボーッと考えてしまう。
『…わわっ!』
ボーッとしていると、額に何かが飛んできて、バシッと当たった。
突然の衝撃で我に返り、体を震わせてしまう。
『い、い、痛いよぉ!』
額を押さえて顔を上げると…夏輝が眉間にシワを寄せて、ムッとした表情でこっちを見ていた。
手には三色ボールペン。それで額を叩かれたんだ…。
…あ。しまった。
今、秋緒の部屋で勉強中だった。
秋緒が『入試に向けて強化合宿しましょう』と、竜堂家にて泊まり込みで圭織ちゃんと勉強することに。
圭織ちゃんは、秋緒と同じクラスの仲良しの子で、三人で勉強していたけど。
すでに推薦合格を決めた夏輝が急に乱入してきて、夏輝の指導のもと、私と圭織ちゃんは勉強をしていた。
秋緒は結局、夏輝に私達を任せて自分の勉強をしている。
そんな最中だったのも忘れて、物思いにふけっていた。
『…何ボーッとしてんだおまえは!勉強せい勉強!ったく…』
『あ、あああ…うん』
がさがさと挙動不審に慌てて、バッと問題集に向かう。
試験日まで、もう半月なんだ。
こんなことしてる場合じゃない。
あぁ。また怒られちゃった…。