王子様とブーランジェール
神様は何も禁止なんかしてない
『す、す、す、すみませんすみません!ぶつかってご、ご、ご、ごめんなさい、ごめんなさいっ!ごめんなさいぃっ!ごめんなさいぃっ!すみません、ごめんなさい、すみませんすみませんごめんなさいぃっ!』
『な、何この挙動不審…気持ち悪い…』
気持ち悪い、にグサッときた。
でも、これだけ怒鳴られて…あんな冷たい目で見られて、私は渾身込めて謝る以外なかった。
謝っている間にも、目頭が熱くなっていく。
謝るのをやめたら、絶対泣いちゃう。
『ご、ごめんなさい!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…』
謝りながら、教室を出て行く。
廊下に出た途端、おもいっきりダッシュした。
行く宛もなく。
ダッシュした時にはもう涙がホロホロと溢れていた。
彼女と並んで、二人揃って見下ろされて、怒鳴られて。
あんな…冷たい目で。
(…嫌だ!)
嫌だ。嫌だ嫌だ。
しかも、みんなの前であんな。
とても、惨めでならない。
あんな冷たい目をする人…誰?
知らない。
やめる…もう。こんなの。
夏輝を好きでいるの…もうやめる。
早まった考えが頭を過り、廊下を駆け抜ける。
どこに行くのか、宛てなんてない。
とりあえず、あの二人のいる教室から少しでも遠くに逃げたかった。
涙だらけの顔を、周りに見られないように伏せてダッシュする。
しかし、そんな前も見ないで走っていると、また人にぶつかるワケで…。
『…きゃっ!』
『あ、あぁっ!』
真っ正面からドン!と人と衝突してしまう。
衝撃で、私は斜め後ろに吹っ飛んでしまい、廊下の壁に衝突して、転がってしまった。
『あいたた…ちょっと!大丈夫?』
相手の人だろうか、女子生徒が傍にやってきた。
また、怒られる…!
先程の件もあり、そう察してしまった私はすぐに体を起こして謝罪する。
『ご、ごめんなさい!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…』
『わ、私は大丈夫よ?そっちの方が派手に転んでたし…大丈夫?』
『…大丈夫ですっ!…すみませんっ!』
即座に立ち上がり、その場を去ろうとしたが、『…ちょっと待って!』と腕を掴まれる。
体がガクンと揺れた。
『…泣いてるの?』
『………』
その女子生徒に顔を覗き込まれる。
とても綺麗な瞳、顔立ち。
まるで、お姫様のような人だ。
『…ちょっとこっち来て』
『えっ?』
そう言って、腕を引っ張られて目の前の空き教室に連れていかれてしまった。