王子様とブーランジェール
か、可愛い?
何が?
辺りをキョロキョロしてみる。
しかし、眼鏡をかけていないので、辺りは歪みボヤけの世界で何が何だかわからない。
すると、私の様子を見て律子さんは笑いだした。
『やーん可愛い!…可愛いってあなたのことだって!もう、何その反応!可愛すぎ!ビックリ!…こんな美少女がこの学校にいるなんて!』
『え?え?』
『…目、すごい大きくてキラキラしてる!しかも、うるうるしてて、チワワみたい!あぁ、愛くるしい、可愛いーっ!』
何言ってんだろ。この人。
私が可愛い?
…この人と秋緒が被ってしまった。
すると、教室のドアがガラッと開いてバタンと閉まる。
誰か、来た!
『…おいおい。何だよこんなとこ呼び出して…』
男子の声だ。
誰か来たのはわかるけど、ボヤボヤの世界で、顔が全然わかんない。
聞いたことのある声ではある。
『…誰?』
男子が私の前で足を止めた。
こっちを指差して、律子さんに話し掛けているのは、何となくわかる。
『…え?慎吾、あんたのクラスの女の子だよ?』
『…え?え?』
男子が、私に顔を近付けてきて、ビクッとさせられる。
『…何かの間違いだろ。こんな可愛い女子、俺のクラスにいねえよ?』
『えー?一年三組って言ってたよ?』
そう言いながら、律子さんは私の顔に眼鏡を戻した。
視界がクリアになる。
『…あ、神田。メガネの神田だ』
目の前にいたのは、同じクラスの男子。
アクセサリーいっぱい着けていて、髪も毛先ツンツンはねて派手目の人だから目立っていて、顔はわかる。
名前…わかんない。
『…ええっ!…今の、神田?!』
間を置いてから、私を見てビックリする。
私もつられてビクッとしてしまった。
『め、眼鏡外すとここまで違うとか、ある?…マジ別人…』
『うふふ。可愛いでしょ?さっきちょっとぶつかっちゃって。それが縁で一緒にいるの』
そう言って彼は私の顔をまじまじと見る。
物珍しそうに…そんなに顔を近付けられると、恥ずかしい。
ぷいっと顔を背ける。
するとまた、律子さんが『可愛いーっ!』と声をあげた。
『こら慎吾!あんまり見つめるんじゃないの!恥ずかしがってるでしょ!もう、照れちゃって可愛い!チワワちゃん!』
『あ、ホントだな。ごめん。でもマジ可愛い。今日夜夢に出て来るわ』
『あ、はい…』
名前、何だっけな。
何が起こってるのか、わからない。