王子様とブーランジェール



自分を嘆いてないで。

隅っこでひっそりとしてないで。

今を楽しもう。


光陰矢のごとし、命短き恋せよ乙女。




今まで、隅っこでひっそりと暮らし、下僕と自負し、モブとして生きてきた私が。

お姫様になるという、挑戦をする。



そんな私が最初に取り掛かったこととは。





『桃李ー。行くぞー』

『は、はい』



昼休み。

お弁当を食べた後、松嶋と教室を出る。

向かったところとは…。



『お疲れー!待ってたよー!』



律子さんが、C教室で待っていた。

手招きされて、三人で机を囲み椅子に座る。

みんなでおしゃべり。



…ただのおしゃべりではない。



『さぁさぁ桃李、昨日と今日はどうだった?』

『あ…昨日、売店でセンパイのサンドイッチ踏んじゃったんです…』

『えー!それは不運!…で?』

『恐い顔した男のセンパイだったんですけど、怒っちゃって…』

『それでそれで?桃李、謝ったの?』

『は、はい。ち、ちゃんとはっきり言えました。自分から…ごめんなさいって』

『お。勇気出せたね?』

『は、はい!…で、お詫びに私の作ったパンとサンドイッチ、差し入れしたら、喜んでくれたんです…嬉しかった』

『おー!それはよかったー!自分だけで謝れたことだけでも、大成功!』

『は、はい。こ、今度はもっとすぐに言えるように、がんばります…』



これは、フィードバックというやつらしい。



私の日々の生活の中で起こったこと、私のやったこと、嫌だと思ったことから、嬉しかったこと。

それを、二人の前で話して、みんなで振り返りを行う。

ダメなところは、じゃあどうすればよかったのかを意見を出しあって話し合い。

成功体験や嬉しかったことは、みんなで共有して喜ぶ。

と、いう、何度も何度でも振り返って話し合う。



そうしていくと、どんどん経験値が増えていき。

自分に少しずつ、自信がついていくらしい。



『やっぱ、喋るときまだどもるよなー。ゆっくりでいいから、はっきり喋れればなー』

『う、うん。まだ緊張とか、恐かったり…』

『大丈夫だー。相手はそう簡単に取って喰わないぞ』



松嶋のお母さんは、コーチングアカデミーの講師で、本を出しているぐらい有名な先生で。

こういうワークショップを、生徒さんたちとやっているみたい。

息子が見よう見まねでやってみる。

律子さんも松嶋母のファンで、講演を聞きに行ったりするみたい。

今度一緒に行く約束をした。


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