王子様とブーランジェール
松嶋、ヤンキーだったの。
ヤンキーというよりは、見た目はバンドやってる人か芸人さんみたいなのに。
ピンとこない。
そんなことをボーッと考えてると、律子さんに手を引かれる。
『桃李?一緒に踊ろ!』
『へっ?』
『明後日の練習に向けて、私が教えてあげる!…慎吾!ミュージックスターティン!』
『おっ。はいはい』
ええええ!
あれよあれよと混乱の中。
机を避けて空いたスペースで、律子さんと二人。
DVD見ながら、ミュージックスターティン。
(わわわわ…)
速い動きに着いていけない。
もう、ぐちゃぐちゃ。
私これ、何のダンス。
少なくとも、チアダンスじゃない。
椅子に座って遠くからこの光景を見ている松嶋は、失笑している。
『桃李、おまえの動き、運動神経ない芸人か!』
『…も、もう!』
もう。こんなの、出来ないぃっ!
『…桃李!私を見て!』
律子さんは、私に声をかけながらも、音楽に合わせてノリノリに踊れている。
完璧…!
『桃李、私の真似してみて!一緒にやろうよ!』
『り、りつこさん…』
一緒にやろうよ!
…って、こんな私にも、嫌な顔ひとつせず、優しくしてくれる。
誘ってくれる。
何でなんだろう。
それに、ダンスカッコいいし。
背が高くてスタイル良くて、美人だし。
…この人みたいに、なりたいな。
(素敵…だな)
『桃李、おいで!』
『は、はい!』
律子さんの勢いに押され、体を無理矢理動かさなくてはいけなくなる。
一生懸命、律子さんの真似をした。
『そうそう!…出来てるよ!桃李!』
(…この人みたいに、なりたい)
『いいね!…あー楽しいっ!』
何か、楽しい。
ダンスは全然、足元には及ばないけれど。
楽しいな…。
この素敵な人と一緒に、私…今を楽しんでる。
『桃李、うまくなってるよ!明日もやろ!』
『は、はい!』
息があがっちゃって、汗かいちゃったけど。
律子さんの素敵な笑顔につられて、私も顔が歪んだ。
…あ、今、私。
笑ってる?
うん、だってすごく楽しいもん。
目の前がキラキラ輝き始めた。
そんな、瞬間だった。
次の日の昼休みも、律子さんとノリノリで練習し、翌日、クラスの全体練習に臨む。
律子さんいないから、ちょっと不安だけど…。