王子様とブーランジェール
放課後、ジャージに着替えて、練習場所の空き教室へと入る。
すでに中にはみんな揃っていて、松嶋や柳川さんを中心に輪になっていた。
『お、桃李!こっちこっち!早速始まるよー!』
美咲ちゃんだ。ダンスのメンバーだったんだ。
慌てて輪へと向かい、美咲ちゃんの隣に行く。
『今日は初だから、立ち位置まだ決まってないけど基本の振り確認でお願いしまーす!元気に楽しくやろー!』
柳川さんだ。
背も高くてスタイルがいい美人さん。
…夏輝のことを気になっているようで、『同中でしょ?竜堂くん彼女いるの?』って話しかけられたことがある。
柳川さん、モデルみたいだから、夏輝の好みじゃないだろうか。
(………)
…こんな時に夏輝のことを考えるのは、よそう。
楽しく笑っていたい。律子さんとダンスした時みたいに。
『ではー!いっきますぜーぃ!…ミュージックスターティン!』
…今は、とりあえず。
楽しかった律子さんとのことを思い出して…頑張る。
頑張るよ、私。
音楽に合わせて、体をがむしゃらに動かす。
《桃李!おいで!》
律子さんとの練習の成果。
完璧では全くないのだけど、少しでも見せるべき!
『桃李、なかなか振り覚えてんじゃーん』
『…う、うん。…ち、ちょっとだけね』
美咲ちゃんに話し掛けられるが、申し訳ないけど必死でそれどころじゃない。
…次の振り。確かくるっと一回転…。
《ここは、キレよくくるっと回るとカッコいいよ?》
律子さんの言葉を思い出した。
よし。
思いのままに、くるっと一回転する。
気張って勢いつきすぎて、回った後にふらついてしまった。
その時。異変が。
(…あれ?)
急に視界がぼやぼやになった。
…あれ?
キョロキョロして、辺りを見回すも。
何も…見えない。
顔をぺちぺちと触って確認するが、体の一部が姿を消していた。
(ない…)
ない。私の一部。
眼鏡…ない?!
ど、どうしよ…!
『桃李、なした?…おわっ!』
急に踊るのを止めて直立になった私を不思議に思ったのか、美咲ちゃんが声を掛けてくれたが。
変な悲鳴をあげていた。
何?何?
『み、美咲ちゃん、眼鏡…眼鏡ない!眼鏡ないよー!』
『だ、誰?…って、と、桃李?!嘘っ!』