王子様とブーランジェール
ぼやぼやで歪んだこの視界。
人の顔すら認識できないのだから、眼鏡なんて自分で見つけられるわけでもなく。
『め、眼鏡…め、眼鏡っ…』
その場にしゃがんで、さわさわと手で探る。
でも、見つからない…!
ど、どうしよ…!
《眼鏡!気を付けろ!》
《人前で眼鏡を外すんじゃねえ!》
あぁ…夏輝のお怒りの声が聞こえてきそうだ。
彼は私に『眼鏡に気を付けろ!』と、いつも口煩く言う。
お決まりのようにすっ転んだり、人に追突してったり、器物を損壊するからだと思う。
どうしよ…怒られる!
でも、何も見えないし、わからない…!
手探り捜索を続けるが。
見つからなさすぎて、悲しくて泣きそうになる。
(………)
…こんな時。
夏輝だったら、眼鏡を探してくれる。
《眼鏡のフレーム調整しとけ!》
で、すぐに見つけて私の顔に戻してくれていた。
文句言いながらも、優しく。
…そんな人を、好きでいるのをやめる。
事が、出来るのだろうか…。
『…何か、ここに入ろうとしたら、眼鏡飛んできたけど…』
この声は…理人!
理人もダンスのメンバーで、後から来るって言ってたっけ。
『…理人!理人!』
『ん…桃李?…あ、これ桃李の眼鏡?』
『眼鏡!…眼鏡ないのー!探してー!』
『…あ、だから。ここにあるって。慌てるんじゃない』
顔がぼやぼやの誰かが、私の前に現れる。
私の顔に手を伸ばしたと思ったら、視界がクリアになった。
…あ。理人。
理人が眼鏡見つけてくれたんだ。
『あ、ありがと…』
『あんなに眼鏡が飛ぶなんて、張り切りすぎじゃない?』
『ご、ごめんね…』
すると、後ろに気配を感じる。
気付けば、音楽も停まっていた。
振り向くと、みんなが集まっていて、私をじっと見ている。
全員、驚いた顔だ。
あ…ひょっとして、今ので邪魔しちゃった?
『す…すみません!眼鏡落として騒いじゃって…』
みんなにペコペコ謝る。
『ねえ…今、眼鏡はずしてたよね?』
一番前にいた柳川さんが、私に恐る恐る尋ねる。
なぜ恐る恐るそんなことを聞くのかわからないけれども、私は普通に返答する。
『はい、そうですけど…』
すると、柳川さんが『ごめん!』と言い、私の眼鏡をもう一度両手で外す。
あっ!…ダメ!ダメダメ!
『ちょっ…目、でかっ!』
『眼鏡の下、こんな顔だったの?』
『び、美少女すぎるでしょ!』