王子様とブーランジェール
えっ…。
すると、みんな一斉に私を取り囲んだ。
誰がだれだかみんな顔がぼやぼやでわからないけど、それはわかる。
『黒目大きいね!チワワみたい!…可愛いよー!』
『何で?何でコンタクトにしないの?!眼鏡ない方が断然いいよぉー!』
『可愛い!髪、ストレートにしなよ!その方が絶対可愛って!』
みんな、寄って集ってわいわいわいわい。
すると、柳川さんが『はい』と眼鏡を顔に戻してくれた。
クリアになった視界に入ったのは、私を取り囲むみんなが向ける、笑顔だった。
『………』
圧巻。言葉が出ない。ちょっと恐い。
ザ・モブがこんなに人に囲まれることはない。
初めての体験だ。
私を取り囲み、わいのわいのと騒ぐ中、松嶋が後ろからパンパンと手を叩く。
『さあさあギャルたち!我々ダンスメンバーの過酷で楽しい道程は始まったばかりだぜよ!みんなで楽しく練習し、学校祭のステージに臨もうではないか!…さあ、練習練習!』
『はーい!』
『頑張りますリーダー!』
『みんながんばろー!』
『神田さんも眼鏡気を付けて頑張ろうね!』
みんなはそれぞれの立ち位置に戻っていく。
そして、ミュージックスターティンで、練習を再開した。
《神田さんも眼鏡気を付けて頑張ろうね!》
こんなこと…言われたこと、なかった。
こういうのに参加するのも初めてだもん。
モブはモブらしくしてろ。
それが当たり前になり、教室の隅っこでひっそりと生きてきた。
こんなダンスなんかとは、無縁だと思ってた。
みんなで輪になって、同じ振りを揃って踊る。
ちょっと間違えたら、みんなで『マジうけるー!』と大爆笑し。
みんなで振りの確認をし合ったり。
そんな輪の中にいる自分が、不思議。
それを、毎日毎日重ねることによって、みんなとも仲良くなっていく。
『桃李、練習してんの?この間より動き着いていけてるじゃん!』
『う、うん。練習…してる』
『いいね!がんばろー!』
『で、いつコンタクトにするの?』
『あ、あ、あ…それは、まだ』
『もうー。早くコンタクトにストパーかけてきてー!見たいー!』
がんばろー。
…うん。頑張る。
みんなで何かをやること、頑張ること。
すごく楽しい。
頑張る…!
『…で、もうそろ、眼鏡を外すぞ?』
『え、え…ち、ちょっと待って』