王子様とブーランジェール



出たところでは、まだ着替えもせずにステージを見ていた生徒たちに囲まれて、一緒に写真を撮っている理人と松嶋がいた。

それを横目に、私は体育館へと戻る。



…びっくりした。

ステージが終わり、体育館を出る時に、びっくりする出来事があった。




『桃李っ』

『…わっ!…えっ?あ、あおこさん?!』

『うふふー』



夏輝に呼ばれて赴いてみると、まさかの人物が夏輝の後ろから顔を出した。

ひょっこりさん?



夜に私のダンスの練習に付き合ってくれた、近所のお姉さん、碧子さんだった。

とてもとても美しい綺麗なお姉さんで、街のお洋服屋さんで働いている。カリスマ店員というやつらしく、たまに雑誌に載っているぐらい、オシャレな美人さん。

碧子さんは、昨年、川越酒店の裏のアパートに引っ越してきた。

その頃は高校三年生で、制服姿でお店に来てくれていて、今や常連のお客様。

たまに彼氏ともお店に来てくれていた。

…今、その彼氏が浮気しちゃって、ケンカ中みたい。

『ダンス得意だから教えてあげる。彼氏と別れて暇なの。一緒に踊らせて?お願い!』

と、夜な夜な二人で、お店のイートインスペースのテーブルや椅子を避けて、DVDを見ながら踊る。

これも、良い練習になったし、何せ楽しかった。




『桃李、よかったよ。かわいい』

『…はい!』



碧子さんが、せっかく見に来てくれたのに。

これしか話せなかったし。お礼言えてないし。

それに、何故夏輝と一緒にいたのか。

碧子さんのこと、知ってたっけ?

実は、夏輝はこの事を知ってて、碧子さんを連れてきてくれたとか?



いろいろ、聞きたいことがある。

夏輝に。



そう思って、一目散に体育館に向かう。

夏輝のところへ。




体育館の中は、真っ暗で。

ステージのみがライトアップされていて、その漏れた光だけが頼りになる。

ステージの周りには全校生徒、ほぼ集まっており、本当に人だらけ。



この中から、夏輝一人を探すのは大変。



…と、いうワケでもなく。

私は知っている。

夏輝は、こういう学校行事で前に出るタイプではなく、やるのも見るのも、どちらかと言えば遠くから見ていて、みんなの楽しむ様子を見て楽しむ人。

だから、ステージ周辺で盛り上がっているよりは、離れた後ろの方にいるはず。



そう思って、館内の隅っこを探す。

…あ。やっぱりいた。



後ろの方で壁に寄りかかって、一人座っていた。


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