王子様とブーランジェール
彼のお姫様にはなれるかは、置いといて。
もう少し、好きでいたい。
そして、あわよくば、隣にいたい…なんて。
隣にいるために。
隣にいる『資格』も持つためには、いったい何をすればよいのか。
実際、こう考えてみても、何をすればよいのかわからないのが事実。
だから私は取り敢えず、引き続き『頑張る』ことにした。
何を?
…それも、わからないので。
取り敢えず、目の前にあることを全部。
取り敢えず、全力で頑張る。
前からおじいちゃんに勧められていた、お母さんが通っていたフランスでの母校で行われるサマースクールに参加することを決めた。
夏休み丸潰れになるけど…お店の手伝いが出来なかったり、花火大会にも行けないし、夏祭りのお手伝いも出来なくなるけど。
ダンスのことといい、体験したことないことを体験するのは、自分にとってプラスになると思った。
今まで無頓着だった身だしなみも、一層気を付ける。
髪のセットの仕方、メイクのわからないことは、律子さんにLINEで聞いて覚える。
…フランスに行って、少し肥ってしまった時はだいぶ焦ってしまった。
今まで、松嶋や律子さんが指導していたコーチングの内容も忘れず。
松嶋母の本を熟読した。
律子さんと松嶋母の講演に行って、松嶋母に直接会わせてもらったり。
日常生活でも、ほんのちょっとの勇気を忘れないように心掛けてみる。
…みんなにとっては、当たり前の勇気だけど。
私にとっては、プラチナ級の価値がある。
でも、空回りも多くて。
その度に夏輝に迷惑をかけることもあった。
泣いてしまって、もうダメだと思ったこともあったけど。
『頑張れ』
夏輝が、私に向けてくれた笑顔や、言葉。
…ここ最近の私の頑張った成果を思い出せば、また頑張ろうと思える。
ずっと、傍に。
もっと、近くに。
あなたの隣に、肩を並べていられる程、強く。
その、強さが欲しい。
…だから、あんな仕打ちにも耐えられた。
球技大会の前日に。
律子さんに用事があって、二年生のフロアである二階に向かおうと廊下を歩いていた時のことだった。
すれ違い様に、2、3人で歩いていた女子生徒と肩がぶつかる。
『…あ、すみません』
『………』
頭を下げて、そのまま通り過ぎようとしたのだけれども。
彼女達は急に私を囲み出した。
え…何だろ。
『…あんた、一年の神田だよね?』
『ちょっと話があるんだけど、いい?』