王子様とブーランジェール
松嶋の謎のシャウトで完全に雷の勢いを殺される。
それは俺的には良かったのか、悪かったのか。
いや、そんなことよりも…スタップ?STAP?
細胞?
すると、松嶋は目の前に来て、俺の両肩をポンポンと叩き始めた。
え、宥められてる?
「さあ、まあまあまあまあ!落ち着いてくだせえ!竜堂のダンナ!」
だ、ダンナ?
同年の、クラスメイトを捕まえて、ダンナだと?
スタップの次は、ダンナ…何ぬかすんじゃコラァ!
おまえの首や手にぶら下がってる、全ての金属、引きちぎってやろうか?!
それとも、その髪ピョン頭、一番上の姉ちゃんから貰ったすげえ固まるワックスで、もっと髪ピョン増やしてやろうか?!
髪ピョン増やしまくって、理科の教科書によく載ってるけど、名前がよくわからない見た目が微妙な植物のようにしてやろうか!
この、松嶋ぁっ!
俺のイライラは。
K点やワールドレコードどころではない。
山、飛び越えた…!
「桃李、いいぞ?」
怒りに震える俺をものともせず、松嶋は振り返って桃李に声をかける。
桃李は体をビクつかせていた。
松嶋はニッと笑いかける。
「さあ、落ち着いて。もういっぺん説明してみようじゃないか!」
「…う、うん!」
そして、深呼吸をする桃李。
「あ、あのね…」
「ハイ!そう!」
松嶋、うるせえぞ。
「朝、センパイのところ、行って来ました。ちゃんと辿り着きました」
「あ、あぁ…」
「朝作ったクロワッサンとサンドイッチ、お詫びの品として渡しました。センパイは『あ、どうも…』と、受け取ってくれました。以上です」
はぁ…。
お、終わり?
描いた丸の謎は?!
俺の目の前にいた松嶋は、いつのまに桃李の横にいる。
「桃李、人との会話に『以上です』いらねえぞ?」
「あ、うん」
「でも、ちゃんと言えた。よしよし」
そして、桃李の頭を撫でていた。
頭…触りやがった!
桃李の頭を触りやがった!
なでなでしやがって…!
だが、なでなでされた桃李も「うん!」と、ニコニコしている。
な、何?
この二人の世界!
怒り反面…ちょっとショックだ。
ショックで茫然とする。
そこへ、松嶋がまたしても俺の目の前に現れた。
こいつ、フットワーク軽いな。
「まあまあまあまあ、ダンナ」
そう言って、俺の背中をポンポン叩く。
そして、小声でボソッと話す。
「あまり怒鳴らないでやって?竜堂サンダー、弱い者イジメに見えるから」