王子様とブーランジェール



『は、はい…』


顔も名前も学年も知らない人たち。

話の内容が見えてこないけれど、取り敢えず着いていくことにした。



しかし、まさか。

夏輝の話をされるとは、この時は思わず。



空き教室に通されて、ドアを閉められる。

途端に一気に彼女たちに囲まれる。



『あんたさー?竜堂くんの何?』

『…え?』



急にその話をフラれて、一瞬混乱する。



『何って…ただの幼なじみですが…』



すると、目の前にいる人に鼻で笑われた。



『幼なじみ?…はぁ?あんた、ストーカーでしょ?』



ストーカー…?



『な、何のこと…ですか?』



質問をし返すと、おもいっきり肩をどつかれる。

『何のこと?!…とぼけてんのあんた?』

それを皮切りに、周りの女子たちも騒ぎ始める。

『ストーカー被害、出てんですけどー?』

『あんた、竜堂くんの周りをうろちょろしてるでしょ?…彼女との仲をぶち壊そうとしてんだろ?!』

『邪魔されて嫌がらせされて困ってるって、彼女泣いてんですけどー?』



な、何それ…。

夏輝の彼女?…誰?

少なくとも、私の存在が気に入らないということは、わかる。




(彼女…いるの?)




最近の夏輝にそんな話、聞いたことがない。

でも、私が知らないだけなのかもしれないと思い、確認のため質問をし返す。



『彼女さん…いるんですか?誰ですか?だとしたら、私はただの幼なじみなんで気にしないで…』



すると、その質問に逆上したらしい。

『あぁ?!』と、傍にあった机を私に向かってガターン!と押し倒す。

『ひっ!』

避けきれずに、太ももに当たってしまった。

痛っ…。


『彼女?誰?…あんた、竜堂くんと美央さんが付き合ってるって、知らないの?!』

『いや、知ってんだろ?!…とぼけたフリすんなよ!』

『美央さん、おまえが邪魔してくるって迷惑してんだよ!ちょっと可愛いからっていい気になりやがって!』

みおさん?誰?

でも、この間、蜂谷センパイといる時に出くわした人は、みおさんだった。

そういやあの人は、うちの教室にも出入りしては…。



『竜堂くぅーん、痛いぃー』

『何この挙動不審、気持ち悪い』



胸の奥底に置いてあった記憶が甦る。



あの人、夏輝の彼女?

い、いや。違うって言っていたような。

でも、あの時…いや、そうでなくては違和感だ。

蜂谷センパイのことは…?



でも、下僕ごときの私に、真実はわからない。

…あ、また自分を下僕って言っちゃった。

ダメ。ダメダメ。


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