王子様とブーランジェール
彼女たちの言い分を否定したと同時に、椅子が飛んでくる。
見事に体全体にぶち当たって、身体中に痛みが走り、その場に座り込んでしまう。
『知らない?…嘘つくな!』
『話は上がってんだよ!…このストーカー!』
ダメだ。
否定すると、一層の怒りを煽る。
何としても、黙っていないといけない状況だ。
耐えねば。
…さっき、律子さんに、狭山さんのところへと連れていかれた。
そこには、狭山さんの他に、上山さんもいて。
律子さんが代わりに事情を説明してくれた。
指を踏みつけられ、殴る蹴るの暴行をされたこと。
それは、恐らく、夏輝のファンたちであること。
『…ほう。何か変な話だな?』
家庭科室の真ん中で、ふんぞり返って椅子に腰かけている狭山さんが、顔をしかめる。
上山さんは、自分のノートパソコンを開いてパチパチとキーボードを鳴らしていた。
『そうですね。神田がナツキくんにストーカーしてる?噂にもなってないのに。…むしろ、ナツキくんの噂としては、嵐とヤッちゃって、追い掛け回されているという話の方が先行してますが』
『嵐、か…?』
狭山さんは、急にニヤッと笑う。
『律子の証言による磯貝、三崎もナツキくんに告白してスルーされてますね。フラれた逆恨みにしては、攻撃する相手が神田っていうのは…ちょっと不自然だと思います。学年が違うし、よほどナツキくんに関わっていないと、神田のことを知ることはないと思いますが』
『よほど関わってないと…か。ほー。何となく読めてきたぞ』
ニヤニヤが止まらない狭山さんの顔をじっと見る時間が続く。
その表情を、少しだけ頼もしいと思ってしまった。
『…よし。菜月、磯貝・三崎以外の連中を洗い出して交遊関係調べろ。黒幕のだいたいの予想はついてるが、裏付けしておきたい』
『了解です』
『私は…白戸に接触してくるぞ』
『白戸?!…まさか!狭山さん…!』
律子さんが声を上げる。
その名前を聞いたとたん、また目がつり上がっていた。
『…神田。もう少し話を聞かせろ』
『は、はい!』
『私達が絶好のタイミングで相手を徹底的に叩き潰してやる。その間、奴らが接触してくるかもしれないが、耐えることは出来るか?』
あの人たちが…また来る、かもしれない。
また、暴力を奮ってくる…。
それに、耐えることが出来るのか。
『…は、はい!わかりました!』