王子様とブーランジェール




こんな『返して!』『ダメだ!』を言い合うために、俺はここにいるんじゃない。

あの話の続きをしたくて。

…校内、探し回ったんだぞ。







『桃李!…桃李!』



どれだけ呼んでも、呼び掛けても。

ヤツが振り向くことはなく、とうとう姿が見えなくなってしまった。



何でだ…何で、逃げるんだよ!

俺の話は?

聞かないのか?!



聞いて…くれないのか?



その場に立ち尽くして、呆然としてしまう。

脳内は混乱していた。



え、何なに。

何か変なことを喋ってると思ったら、急に爆泣きし出して。

で、急に『だいすきです』って告白されて。

でも、『明日パン焼いてきます』『話は終わりです』と、姿をくらまし…。



(………)



何がしたかったのか、わからない…。



だけれども、そこの真意ってやつを問いたださないといけない。



『…あははは!…ちょっと、告白された時の夏輝の顔、傑作なんだけど!…あははは!』



しまった。

外野が一人いた。

理人、椅子に座って腹を抱えて笑い転げている。



『…は?俺の顔?』

『口開けてポカーンってしてたじゃん。…あー。写真撮ればよかった。面白くてたまらん』

『………』

こいつ…。

『おまえ、笑ってんじゃねえよ…』

混乱する頭を落ち着かせるかのように、頭を振る。



『…っつーか。何突っ立ってんの』

『…は?』

『追い掛けないの?』

『え…』


理人の顔が笑い顔から一転、眉間にシワが寄った。


『え…って何。このままスルーするつもり?何やってんの。…まあ、別にいいけどさ』

『スルー?…んなわけっ…!』

『ホント、そういうところダメだよね。加えて言えば、女の方から告白させるとかだっせぇな。おまえ、どこまでもだっせぇわ』

『はっ…んだと!』

それは、不意討ちというやつで。

これに関しては、俺の方から言ってやるつもりだったのに…!

『結局は玉座でふんぞり返ってる王子様か。自ら汚れようともしない』

『…ふざけんなよ!』


理人のこの冷たい口撃に反論してやりたいことは山ほどあるが。

今はそれどころではない。

追い掛けねばならない…桃李を。



『…おまえ、後で殺してやるからな?!覚えとけ!』

『はいはい』



理人をキッと睨み付けて、ダッシュで屋上を後にする。

『バイバーイ』と、呑気に手を振られた。



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