王子様とブーランジェール



なのに…。

…こんな展開になるなんて、誰が想像しただろうか。



《夏輝のこと…だいすきです》



…あぁっ!



頭の中でリピートされた。

これは、相当くるぞ。

悶える…!



これは、もう…。

激アツだ…!



頭が熱くなって、真っ白になって、ちょっとフラフラする。

頭を抱えながら、つい壁に寄り添ってしまった。

照れる。恥ずかしい。照れる。

爆発する…!



大きく息を吸って吐く。

何回も繰り返した。



随分とカッコ悪い事になっている。

まさかの告白をされて、一人悶えるだなんて。

理人の言うとおり、ホントだっせぇ。



でも…めちゃくちゃ嬉しかった。







気を取り直して、屋上への階段を上がる。

突き当たりの屋上へのドアは閉まっていた。

ノブに手をかけて捻るが、鍵がかかっているようだ。



やはり、まだ屋上に残っているワケがないか。



引き返そうと体を返すと、足元に何かが落ちているのに気付く。

危うく踏みそうになってしまい、慌てて拾い上げた。



これ、何だ?




どうやら、ピンクのマスコットのようだ。

うわ。顔のパーツがない。のっぺらぼうだ。

ピンクののっぺらぼう。



しかし、こののっぺらぼうの服装、なんとなく見たことがある。

この金太郎みてえな前掛け。

『飛騨』とど真ん中にドーン!と書いてある。



飛騨…。



…あぁ、これ。

咲哉のお気に入りどら衛門カードと同じ服だ。



さるぼぼだ…。



さるぼぼを生で見るのは初めてだ。

こんなにカラフルなのか。このさるぼぼというヤツは。



しかし…。



記憶を辿る。



《…さ、さるぼぼちゃん!》



確か。桃李と屋上で会った時に。

あいつ、ピンク色の何か、持ってたな。



その、手にしたさるぼぼを見つめる。



…これ、桃李のか?




すると、トントンと階段を上る足音が聞こえてくる。

誰か来る?

大きくなる足音と共に姿が見えてくる。

向こうもこっちの存在に気付いたようだ。



『あれー。新しいミスターじゃねえか』



薄青の作業服を着たおじさんだ。

用務員の岡部さん。



『いつもお疲れ様です』

そう言って、岡部さんに頭を下げる。

岡部さんは、不思議そうにこっちを見てきた。

『屋上に何か用事?さっき閉めちゃったよ?』


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