王子様とブーランジェール
『あ、いえ…用事ってほどじゃないです』
『去年まではねー。ミスターのファンクラブの女子たちがいろいろうろうろしてたり、生徒を呼び出したりしてたから、屋上もすんなり閉めれなくてねー?今は解散して家庭科室にこもってるみたいだから一安心だ』
『そ、そうですか…』
狭山たちのことか。
屋上で何をやってたんだ。
生徒を呼び出し?!
それ…事件の臭いがするでしょ?!
なぜ呑気に昔話のように語る?
ホントに一安心だわ!
『…あ、邪魔してすみません。お疲れ様です』
岡部さんと立ち話をした後、頭を下げて立ち去ろうとする。
しかし、岡部さんの顔がハッとした表情に変わった。
『…あ。あっ!ミスター、その人形ちょっと見せて!』
『人形?』
岡部さんが指差してるのは、俺が手にしている、桃李のモノだと思われるさるぼぼだった。
『…え?これですか?そこに落ちてたんですけど』
『あー!やっぱりそうだ。それだそれ。それを探しに来たんだよー』
『これ…ですか?』
『さっきここで踞っていた女子生徒がいてね?具合悪そうだったから保健室に連れてってやったんだけど、ピンクの人形をどこかに落としてきたって言っててさ?』
『え…』
ここで、踞っていた?
『で、おじさん探して来てやるから、保健室で寝てなさい!って、探してたんだよー』
保健室で…寝てる?
何だか、急にドキドキし始めてしまった。
『あ、岡部さん…その女子、誰ですか?名前…』
『名前?…何だっけな。肌が白くて可愛い感じの子だよー。みなみちゃんが一年だって言ってたな。男子の会話にもしょっちゅう名前が出てくるってたぞ?…うーん。何だっけな』
肌が白くて可愛い感じ。
一年。
男子の会話にもしょっちゅう名前が出てくる…え。ホントか?
これは…。
…恐らく、桃李だ。
いた…。
『…お、岡部さん!その女子、今どこにいますか?俺も探してて…』
『お、そうなの。保健室で寝てる』
『探してる』と一言話すと、岡部さんは何の疑いもなく、俺を保健室に連れてってくれた。
岡部さんの後に続いて、保健室に入ると。
やはり、ヤツはいた。
ベッドで右向きに横になっている。
入ってきた俺達に背を向けている状態。
けど、その少し見えた後頭部で、もうわかる。
桃李だ…。