王子様とブーランジェール


『あ、いえ…用事ってほどじゃないです』

『去年まではねー。ミスターのファンクラブの女子たちがいろいろうろうろしてたり、生徒を呼び出したりしてたから、屋上もすんなり閉めれなくてねー?今は解散して家庭科室にこもってるみたいだから一安心だ』

『そ、そうですか…』



狭山たちのことか。

屋上で何をやってたんだ。

生徒を呼び出し?!

それ…事件の臭いがするでしょ?!

なぜ呑気に昔話のように語る?

ホントに一安心だわ!



『…あ、邪魔してすみません。お疲れ様です』



岡部さんと立ち話をした後、頭を下げて立ち去ろうとする。

しかし、岡部さんの顔がハッとした表情に変わった。



『…あ。あっ!ミスター、その人形ちょっと見せて!』

『人形?』


岡部さんが指差してるのは、俺が手にしている、桃李のモノだと思われるさるぼぼだった。


『…え?これですか?そこに落ちてたんですけど』

『あー!やっぱりそうだ。それだそれ。それを探しに来たんだよー』

『これ…ですか?』

『さっきここで踞っていた女子生徒がいてね?具合悪そうだったから保健室に連れてってやったんだけど、ピンクの人形をどこかに落としてきたって言っててさ?』

『え…』



ここで、踞っていた?



『で、おじさん探して来てやるから、保健室で寝てなさい!って、探してたんだよー』



保健室で…寝てる?

何だか、急にドキドキし始めてしまった。



『あ、岡部さん…その女子、誰ですか?名前…』

『名前?…何だっけな。肌が白くて可愛い感じの子だよー。みなみちゃんが一年だって言ってたな。男子の会話にもしょっちゅう名前が出てくるってたぞ?…うーん。何だっけな』



肌が白くて可愛い感じ。

一年。

男子の会話にもしょっちゅう名前が出てくる…え。ホントか?



これは…。

…恐らく、桃李だ。



いた…。



『…お、岡部さん!その女子、今どこにいますか?俺も探してて…』

『お、そうなの。保健室で寝てる』





『探してる』と一言話すと、岡部さんは何の疑いもなく、俺を保健室に連れてってくれた。




岡部さんの後に続いて、保健室に入ると。

やはり、ヤツはいた。

ベッドで右向きに横になっている。

入ってきた俺達に背を向けている状態。

けど、その少し見えた後頭部で、もうわかる。

桃李だ…。



< 862 / 948 >

この作品をシェア

pagetop