王子様とブーランジェール
『おーい!迎え来てるぞー!』
岡部さんは、桃李を揺すって起こす。
そ、そんな、迎えに来てるとか…!
何か照れる。
しかし、ヤツは起きない。
あんなに揺さぶられたのに。
『ありゃー。だいぶ寝てんな』
『………』
確認のため、向こうを向いている顔を覗き込んでみる。
…あぁ、やはり。
白目剥いてる…。
余程、深い眠りについているようだ。
『たぶん…しばらく起きません』
『そうかー。余程調子悪かったんだなー。目も腫れてたしなー?』
目も腫れて?…白目だから、よくわからない。
岡部さんはもう帰るらしい。
しかし、ヤツは起きないので、俺が代わりに起きるまで付き添い、連れて帰ると申し出る。
『え?ひょっとして、ミスターの彼女なの?この子…』
『いや、ただ近所に住んでるだけです…』
彼女…やめて。照れる。
でも、そんな話を。
これから、する。
ヤツが起きた後に…。
俺に保健室の鍵を預けて、岡部さんは帰った。
生徒一人に鍵を預ける?
ミスターの信頼とは、先生たちにとっては余程のものらしい。
だとしたら、ミスターお得。
教室からカバンも持ってきた。
部活は…サボってしまった。自主練だからまだいいけど。
岡部さんも帰り、静まり返った保健室。
桃李と二人きり…。
前にも、こんなことあったよな。
ヤツが寝不足でブッ倒れた時以来だ。
(………)
ベッドサイドの椅子に腰掛け、ベッドで寝ている桃李を見つめる。
静かな寝息さえ聞こえていた。
ようやく、見つけた…。
いた…。
(はぁ…)
安堵の息なのか、わからないけど。
ものすごい深いため息が出た。
そして、ベッドに横たわったまま俺に向けているその背中を見つめる。
じっと見つめ続けていると…ここ最近のことを思い出してしまい、胸がじわじわと熱くなってしまった。
その華奢な背中に引き寄せられるように、身を乗り出す。
思わず、掛け布団の上から、背中の真ん中があるだろう部分へ、顔をそっと埋めてしまった。
今回ばかりは、本当に悪かった…。
痛い思いさせたり、辛い思いさせたり。
俺がだらしないばかりに、こんな思いさせて、本当にごめん。
本当に、だっせぇことばかりやってた…。