王子様とブーランジェール
その挽回ってワケになるんだけど。
どうか、その話の続きをさせてほしい。
この『好きだ』って想いを、伝えたい…。
そんなことを思いながら、背中に顔を埋めたままでいる。
しばらくこのまま…と、目を閉じた。
だが。
(…あっ!)
忘れていたことは、だいたい一息ついた時に思い出す。
顔をバッと上げた。
そういえば…こいつ!
とてつもない、危ない兵器を持っているんだった。
非殺傷性携行兵器。
スタンガンを…!
その、人を感電させて動けなくしてしまう危ない兵器、桃李が持っていたら。
こいつはバカだから、間違いなく事故が起きる…!
一番考えられる事故は、自分で感電。
しかし、そんな危険なモノを持っているにも関わらず。
こっちに渡すよう促しても、よく分からない理由で頑固に拒否をしていた。
何の思い入れがあるのかは、知らんが。
しかし、チャンスだ。
ヤツは寝てる。
この、寝ている隙に…取り上げてしまえる!
傍にある床頭台に目をやる。
桃李のあのバカでかいピンクのリュックが置いてあった。
何のためらいもなく、手にかける。
リュックの蓋を開け、口を拡げた。
…そこは他人のプライベートだろって?
そうじゃねえ。事故防止だ。
中は物だらけ。
とりあえず、物でいっぱい。
ちゃんと整理してない。
…なんか、生物のノート入ってる。
今日、生物無かっただろ。
他にも、料理の本だとか、小さい枕が入ってる。
…おっ。化粧ポーチ?
あいつ、こんなモノ持つようになったのか。
興味本位で中を開けてみる。
中には、UVパウダー、アイブロウペンシル、マスカラにビューラー、UVクリームにリップ…。
なんか、初々しい感じがする。
春愛のポーチみたいに、たくさん入ってごちゃごちゃしてない。
かわいいな…。
化粧ポーチの外ポケットが少し膨らんでいる。
不思議に思って、そこのファスナーを開けてみた。
中には、ティッシュとハンカチ?…ちゃんとこういうのを持つようになったのか。
ハンカチ…あ、これ…。
ふと、目にしてドキッとさせられる。
それは、見覚えのあるものだった。
小さい桃が、敷き詰められた柄のガーゼハンカチ。
これ…俺があげた、お土産のハンカチだ。
昨年の夏休み中、クラブチームの全国大会で、岡山県に行った。
その時に、空港で買った桃李へのお土産だ。