王子様とブーランジェール

此処は時既に戦の場









初めて味わう、恋愛バトルの敗北。

かなりのダメージだったのか、午後の授業は手につかなかった。



だが、やられた、負けたとは一度思い込んでも。



『あまり怒鳴らないでやって?竜堂サンダー、弱いものイジメに見えるから』



…ぬおおぉーっ!!

む、ムカつく!!





俄然負けん気が強く、諦めの悪い俺。



どうすれば勝てる…!



頭の中でシミュレーションをする。

サッカーやキックボクシングの試合の時も、シミュレーションは欠かせない。

勝てる術の引き出しをいくつも作っておく。



松嶋…アイツ、弱そうなだもんな。

首狙ってハイキックで一発で仕留められそうだ。

…じゃなくてさ。

ケンカをするんじゃないんだ。もっとこう出し抜く方法を考えねば。

じゃあ…落とし穴作るか?

いやいや。一発で仕留めれなさそうだ。

じゃなくてさ、一発で仕留めるとか、やめようぜ?

そういう土俵じゃないだろ?

相手を撃沈させる方法は方法でも、一発で仕留めたところで解決する問題じゃねえ。

そういう問題ではないのだ。





考えすぎて、ついつい独語してしまう。



「…じゃなくてさ…じゃあ…いやいや…じゃなくてさ…じゃないだろ?……」

「夏輝、またシミュレーション?何の?」



理人には、俺が今脳内シミュレーションしているのがモロバレだ。

付き合い長いと、こうもわかられてしまう…。



しかし、俺は重大なことに気付いていなかった。

サッカーやキックボクシングとは違って。

俺の恋愛スキル自体がとても低い。

シミュレーションしたところで、その引き出しの中身のクオリティもとても低い。



延々と脳内で悩んで、その重大事項に気付くのは、今から二日後の日曜日の夜だったりした。




あぁ…こんなんじゃ、松嶋に勝てない…。

竜堂のダンナと呼ばれ、一生を生きていく…。









「…このままじゃ、悪名高いお代官様だ」




「はぁ?」




何度シミュレーションしても、良い術が見つからない。

ハイキック、落とし穴の他に、いろいろ考えたが、結局そんな問題ではないことに気付く。

じゃあどうするか?と、考えても、また同じハイキックやら落とし穴に辿り着いてしまった。

想像力がない。

二日間考えていると、いい加減疲れて、「あぁ…やっぱりお代官様になってしまうのか…」と、思い始めていた。



「…バカ?夏輝、とことんバカ?」



やはり、おまえならそう言うと思ったぜ理人。

そう、俺はバカ…。


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