王子様とブーランジェール
俺のライバル、スタンガンなの?
時刻はもう6時になろうとしていた。
保健室の鍵を閉め、事務室に鍵を返却し、ようやく学校を出る。
正面玄関口を出ると、外はすっかり暗くなっていた。
…この上ない悲劇としつこさは継続していた。
「…ね、ねえ、本当に返してくれないの?」
俺の後ろをちょこちょこと着いて歩いてくるヤツ。
まだ、スタンガンを返せ!と訴えている。
しつこい通り越して、呆れるわ。もう。
「そ、そ、それは、私のモノなんですよ…ひ、ひ、人のモノ取っちゃだめでしょ…」
まるで、幼稚園の先生が園児を注意するようなスタンスで来やがった。
口で俺に勝負しようってのか。
「…モノを取った?…人聞きの悪い。これはあくまでも事故防止対策のためのやむを得ない没収だ」
「ぼうし…」
「…帽子じゃねえぞ?防止だ。被るもんじゃねえ」
「あ、なんだ…」
「『なんだ』って言った?言ったか?…何で帽子関係あんだよ!おまえはドジだからヘルメットでも被ってろ!」
「じ、じこヘルメット…」
「ちっ。まあいい。それに、おまえがこれを持っていたら、最低二回は自分で感電するぞ。おまえがスタンガンに倒されてどうする」
「そ、そ、それは、夏輝も一緒でしょ…な、夏輝も持ってたら、か、感電…き、危険…」
「はぁ?!俺が?…おまえみたいなバカと一緒にするなよ?俺はそんな失敗は絶対にしない!」
「で、でも…」
「…あぁ?」
「う、うぅぅ…ご、ごめんなさい…」
あまりのしつこさに、振り返ってギロリと睨み付けてしまった。
桃李はビクッと体を震わせて、しゅんと俯いている。
ようやく黙った。
(あ…)
久々にやってしまった。
キス失敗の恥ずかしさと、桃李に対するガラにもない発言の恥ずかしさと、この上ないしつこさにイライラしてしまい、久々に目で威嚇してしまった。
あぁ…。
もうやめようと思っていても、こういう時にボロが出る。
こんなに強気で出ていても、実は心の中は、ボロボロだったりする…。
だっせぇ。恥ずかしい…。
背後から、ガサガサと音が聞こえてくる。
足音も止まり、立ち止まってるようだ。
再び振り返ると、桃李はリュックを背中から降ろし中に手を入れてごそごそとしていた。
「ハンカチハンカチ…」
先ほど、盗み見したポーチを開けている。
「あ、あった…」