王子様とブーランジェール
「屋上で、さっき…?」
ヤツはきょとんとしている。
…恐らく、ほんの少しだけ忘れてるぞ。
そこは想定の範囲内だ。
しかし、めげない。今回は。
さっき恥ずかしくて死にそうな思いをしたんだ。
今さら恥ずかしい発言のひとつやふたつ、どうってことない。
すっとぼけさせないぞ?
何なら、一言一句、丁寧に思い出させてやろうか?
俺のこと、大好きです…って、言ったよな?
って。
目の前にいるヤツは、顔をしかめて無言でいる。
一生懸命思い出している様子か。
だが、そんな中で。
急にパチッとその大きい瞳が見開いた。
「あっ…」
そして、みるみるうちに、顔が赤らんで変わっていく。
「…ああぁぁっ!」
なぜか辺りをキョロキョロ見回し、手をバタバタさせて挙動不審になっていった。
…思い出すの、早かったな。
「あ、あ、ああぁぁっ…あわわ、わ、わわわっ、わわわわ…あ、あぁぁぁ…」
挙動不審ぶり、半端ない。
顔真っ赤にして、あわあわと慌てている。
予想しなかったベタな反応だ。
こっちまで恥ずかしくなってくるじゃねえか…。
俺と目が合うと『ひいぃっ!』と、久々の汚い悲鳴を聞いた。
ますますあたふたしている。
その悲鳴、やめろ!
「あ、あ、あのっ…あぁぁぁ…」
落ち着きままならないまま、ヤツは話し出す。
が、挙動不審MAXなのか、言葉になってない。
身振り手振りが大きくなっていた。
ったく…。
「あ、あ、あのっ…あのぉっ!…」
「どうした。落ち着け」
いつものクセで、冷静に返してしまったが…後でハッと気付く。
いやいやそうじゃない。
何で偉そうに上から目線になってるんだ俺。
これから誠意を持って、本音を伝えるって時に…!
こっちも大混乱。
首を横にブンブンと振って、気を付けて取り直す。
こっちから。
今こそ、言うべきことを言え。
「…桃李」
「あ、あ、あ、あのっ、あぁぁぁっ!あのぉっ!」
「聞いてほしいことがあるんだけど…」
「さ、さ、さ、さっきのは、無しで、無しでお願いしますっっ!」
「…え?」
今、何て言った…?
さっきのは、無しでお願いします。
首を傾げる。
今の…聞き間違いか?
目の前の桃李は、えへっ?と笑っている。
…え?え?
なぜ、そこで笑う…!