王子様とブーランジェール



肩にかけたボディバッグには、空港で選んだあのおみやげが入っていて。

渡せるだろうか。

今は…忙しそうだから、無理か。

っつーか、渡せるタイミングっていつ。



そんなことを思いながら、しばらくその場に立ち尽くしていると、『おぉ!夏輝!』と声をかけられる。

テーブル席に一人で座って、焼酎の入ったプラコップ片手に、俺を手招きして呼んでいるおじさんがいた。

『門脇部長!』

『こっちにもう帰ってきてたのか?来い来い』

サッカー少年団の部長、寿司屋の門脇さんだ。

大会の報告もしなければならないし、そっちに赴く。

隣に座らせてもらった。



『部長、一人呑みですか?淋しい』

『うるせーな。さっきまでキタさんいたんだけど、一回店閉めに戻るって。おまえのこと気にしてたぞ?…あ、凜は?』

『まだ家で寝てます。後で来ると思いますが』



そして、門脇部長に大会の結果報告や、今後の進路についてなど、話が盛り上がる。



『…へぇー。凜は青森で、おまえは鹿児島か苫小牧に特待生入学か。父さん母さんは何て言ってんの』

『どこでも好きなようにしろと…』

『開智ならそう言いそうだな…あ、おまえ、腹減ってる?何か食べるか?優勝祝いに奢るぞ?』

『マジすか!えーと…』

そう言われて、メニューを見ようと出店の方に顔を向ける。



その時、ちょうど視界に入ってきた。

お盆にたくさんのビールを乗せて、テーブル席に運んでいる桃李の姿が。

ウェイトレス桃李だ。

体のデカいおじさん達が複数いるテーブルへとビールを運んでいた。

あれは、ミニバスの父兄達だ。



『ビールお待たせしましたー!』

『…おっ!桃李ちゃん!ありがとう!』

『おいでおいで!こっち座りなさい!』

『…あ、す、すみませんっ。あ、ありがとうございますっ。で、でも仕事中なので…』



ミニバスのエロオヤジども。

ここは、スナックじゃねえぞ。

桃李をテーブルに誘うな。腹立たしい…!



イラッとしながら、その光景を見守る。

桃李はペコペコと頭を下げながら、そのテーブルを離れていた。




『…桃李ちゃん、かわいいよなー?』


門脇部長の一言に、ドキッとさせられる。

やば。見てたの、見られてた。

照れ隠しに、ふと一言出てしまう。

『…天パ眼鏡ですけどね』

『ははっ。見た目?…夏輝、おまえはまだまだだな?』

『は?』

部長にあしらわれたような気がして、ムッとさせられる。


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