王子様とブーランジェール
『社会の女性進出で、主張と気の強い女性が増えてる中で、ああいう子は貴重だぞー?』
そう言って、門脇部長も売り場に戻った桃李を見ている。
にやけながら見るんじゃない。このエロオヤジ。
『純粋で健気で、謙虚で。で、黙って一生懸命働く。あのほんわかした空気を出せる子はそうそういない。癒しだな』
だから、エロオヤジこの。
でも、言われてみれば、俺の周りにも気の強い女は多い。
だから、桃李に惹かれるのかもしれない。
ほんわかした空気…か。
俺もそれを求めて、ついつい会いたくなる。
『…で、気弱で、儚い感じがするから、守ってあげたくなるんだよな。…今の時代、この《女を守ってやりたい》という心構えを持った男が減ってるような気がしてな?まあ、女の方が強い時代だから、仕方ねえのかもしれないけど』
『…そうですか』
『…夏輝。まだまだ子供だけど…大人になったらあの子は化けるぞ?』
『は、はぁ?』
『まあ、母さんがあんだけ美人だからな?あの子はいい女になるぞ?あの健気で謙虚なところ、きっと上手に男を立てることが出来るからな?』
『………』
うるせーな。エロオヤジ。
とっくにわかってんだよ。ヤツが美人とかいい女だってのは。
たぶん、この世界中で一番俺がわかってる。
『あの子を嫁に貰える男は幸せ者だ。個人的な意見としては、あの子にふさわしい、立派な男があの子を幸せにしてくれればと思うんだけど。どんな男と結婚するのか、楽しみだな?』
桃李にふさわしい、立派な男…。
桃李を幸せに出来る男、か。
それは、どれくらいの道程だろう。
俺は今、その道程のどこらへんにいるのか。
辿り着くための力を持っているのか。
『…門脇部長』
『ん?何だ?』
『…どれだけ立派になれば、彼女にふさわしくなれますか?』
問い掛けた後に『あ、やば…』と、後悔してしまった。
門脇部長、驚いた様子で、目を丸くして黙って俺を見ている。
し、しまった。
つい、思い余って。
『…あれ。おまえ、今、里桜と付き合ってなかったっけ』
『あ、それは…』
そうだ。そうだった。
ヤバい。オヤジの説教という、めんどくせータイムが始まる。
『…だなんてな。哲ちゃんから聞いてるぞ。「パン屋の娘のことを一途に好きなのに、素直になれなくて、言い寄ってくる女で遊んでる」ってな』
…何っ!