王子様とブーランジェール
少し歩いたところのカウンターに、釣り道具を返却する。
理人は少し離れたところで、ケータイで電話していた。
通話し終えたのか、こっちにやってくる。
「陣太たち、向こうにいるって。ツリートレッキングやってたみたい」
「ふーん」
ツリー…最初に集合した場所か。
確か、他にトランポリンやら、でかい滑り台やら、子供向けの迷路やらいろいろ遊具集合していたところか。
同じ敷地内、丘を越えて、ちょっと歩けばその会場にはすぐに辿り着く。
丘を上がり、その上から見渡す風景は。
人だらけ。
うちの学校の生徒だらけだ。
丘から降りて、その人混みの中を理人と二人で歩く。
「人だらけだな。陣太たち見つかるのかよ」
「確かあっちのはずだけど」
途中、「竜堂くーん!」と、声をかけられ、知らない女子に手を振られる。
誰だおまえは。と、思いながらスルーする。
「誰?」
「知らない」
「へぇー。夏輝、忘れてるだけじゃね?酒の席とか思い出してみれば?」
理人はニヤニヤしながら俺の顔を覗きこんでいる。
んなワケあるか!
もうそのネタは絶対やめだ!やめ!
辺りを探してみても、陣太たちが見つからない。
人…うちの生徒だらけで、もう何が何だかごった返してる。
もう一回電話した方がいいんじゃねえか?
と、思い始めていたら、探し人は向こうからやってきた。
「おぉーい!理人!夏輝!」
俺達の姿を見つけたのか。
陣太と咲哉が向こうから俺達のところに走ってやってきた。
「おぉーお疲れ二人そろって。何してた?」
「まあまあまあいいから、ちょっとこっち来い!」
そう言って、陣太が手招きしてくる。
咲哉が「早く早く!」と、俺の背中を押す。
え?何?何?
そうして、無理矢理連れてこられた場所とは。
「へぇー…」
その全貌を見上げる。
屋外にこんなものがあるのは珍しい。
「これ、夏輝ならクリア出来そうじゃね?ね?」
「俺さっきチャレンジしたけど、ダメだったのよ!やってみてくれって!」
ボルダリングウォールだ。
横幅15メートル、高さは、右側は低めだが、左に向かうに連れて、どんどん高さがついてきている。
MAX5メートル強といったところだ。
その一番高さがついてるエリアをチャレンジしているヤツがいる。
だが、てっぺんの方は角度がついており、そこで落下していた。
「これ、俺にやれっていうのか」