王子様とブーランジェール
低自己評価の、劣等感の塊。
…これが、5年間の積み重ねの産物。
実はこれ…とんでもないことになっているんじゃないのか?
「…桃李、ごめん!」
しでかした事の大きさに気付いてしまい、とっさに謝罪の言葉が出てしまった。
桃李が身を隠しているテーブルの向こうへ回り込み、視線の高さを合わせて目の前に座り込む。
突然現れた俺に「ひっ!」と声を上げ、体を震わせていた。
「桃李、ごめん!本当にごめん!今までひどいことばかり言って…ごめん」
5年間の積み重ねは、こんな謝罪程度じゃ到底許されない。
土下座したって、坊主にしたって、足りないだろう。
だけど、謝るしかない。
しかし、桃李はポカーンとして俺を見ている。
「…何で?何で夏輝、謝ってるの?」
「え?…いや、だっておまえに俺、ひどいことばかり…」
「だって、私がいつもダメでドジだから、夏輝は怒るんだよ?夏輝は悪くないでしょ?」
「いや、それは…違う!」
「違わないよ?だって夏輝の方が正しいもん」
「………」
言葉を失った。
何これ…。
こんなにも桃李を怒り散らして、自尊心ズタズタにしたのに。
俺、悪くないの?
俺が一番正しいって…何?
これ、何の呪い?
そして、なぜか今、あの吃りとたどたどしい敬語が消えている。
なぜ?
でもこれ、洗脳レベルでしょ…。
愕然とさせられる。
呪いかけたの、誰?…俺?
何で、こんなとこになってるのに、気付かなかった?
毎日、見ていたはずなのに。
…いや、いつも見ているとか言ってるけど。
実は、全然見てなかったんだ。
照れ隠しをするのに、精一杯で。
見えてなかった…。
俺は、今まで。
何をやっていた…。
…なのに。
《夏輝のこと…大好きです》
俺のことを、こう言ってくれるなんて。
こんな最低なヤツのこと、好きだとかって。
頭おかしいんじゃねえかっていうぐらい、優し過ぎる。
「…おまえ、俺のどこが好きなのよ」
茫然とした頭の中、思ったことがそのまま口に出てしまった。
はぁ…と、ため息まで出る。
「何でそんなに悲しい顔してるの…」
「…俺のことなんていいから、早く」
「えっ…」
ホント、悲しみ全開だよ。
ネガティブ思考にシフトしつつある。
最低すぎるわ、俺。
桃李、顔を赤くしてモジモジしてんな。
かわいい…。
あまりにも愕然としていて、ものすごい恥ずかしい質問をしていることに気付いてなかった。