王子様とブーランジェール



それからと言うもの、パンにハマってしまった俺は。

朝食は絶対パン派となり。

母親に小うるさくねだっては、パンダフルのパンを買ってきてもらい。

小腹が空いたら、徒歩5分の距離を歩いてパンダフルにパンを買いに行く。

おじさんおばさんとも仲良くなり、めっちゃ常連となった。



桃李も日常的にパンを焼く。

俺がパン好きなのを知ってるため、たまに焼いたパンを持ってきてくれる。

それは、俺の至福の時でもあった。



桃李自身もなかなかの腕前で。

しっかりとおじさんおばさんのパンの味を引き継いでいる。

挙動不審なダメドジ女の唯一の取り柄だな。




でも、そんな、挙動不審な落ち着きないダメドジ女でも…。







「ちゃんとしろよ!ってか?今日も夏輝の厳しすぎなお言葉が飛んだな」


「…は?」


昼休み。

弁当を食べ終えて、デザートに購買のあんパンを食べていると、急に理人が話を振ってきた。

厳しすぎなお言葉って、桃李のスマホの件か。



「んなもんしゃーねえだろ。ちゃんとしてなさすぎるのはイライラすんだよ」

反論すると、理人が「またまたー」と、ニヤリと笑う。

な、何で笑うんだよ。

「好きな女の子には照れ隠しでいじめちゃうってか?おまえは小学生か」

「…いや、ちょっと違う気が」

「そういうのツンデレって言うんだってば」

「はぁ?」

照れ隠し…それは否めないが。

ツンデレ?

8割方本気のイライラだ。




うん、否めない…。



イライラはするんだけど。

何かアイツ、ほっとけない。

傍にいて見張ってないとあぶなかしい。

そのうち大きな事故にあって、死んでしまうかもわからない。


んでもって、あの素直さと。

パン作りの腕前。



そんなワケで…ついつい気になってしまう。

挙動不審ダメドジ女でも。




「この純情ラブストーリーはいつまで続くんだ?もうかれこれ五年間」

「…うるせえぞ理人」

理人は、俺のこの想いを知っている。

俺から話したワケじゃないが、何となく感づかれたというか。


っていうか、ここでそのことを喋るな!

おまえぐらいしか知らないんだよ、このことは!

周りの連中は一切知らない。

理人だって、勝手に気付いてしまっただけであって。

もちろん、桃李だって知る由もない。



俺の一方的な片想いだったりする。


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