王子様とブーランジェール



俺の仇をとってくれ!みたいな感じか?

随分とムキになっていらっしゃるな?


「理人、やれば?」

何となく理人にふってみる。

「いやいや。ここは鍛えてる夏輝がやれば?格闘技やパルクールやってるくらいだろ。こんなの楽勝じゃね?」

「………」




てなわけで。挑戦。




麓に立ち、5メートル強のウォールを見上げる。

どこから攻めるか。リーチのことは心配いらないから、足を掛けやすそうなパーツが多そうな左から攻めるか。

で、この角度ついた部分に差し掛かる前に真ん中になるべくよって、一気に攻めるか。

何となーく漠然と考える。

すると、ギャラリーから声がかかる。

「おぉっ!夏輝、そこチャレンジするワケ?」

「盛り上がりますなぁー!」

幸成と翔だ。おまえらもいたわけ。

「野次馬静かにしとけよ?」

「静かにしません!盛り上げちゃう!」

すると、二人は手を叩き、コールし始めた。

「なーつーき!なーつーき!」

「ば、バカ!ヘタに盛り上げるな!」

すると、陣太や咲哉もニヤニヤしながら、一緒になってやり始めた。

「それ!なーつーき!なーつーき!」

「やめんか!」

すると、イベント効果の気分高揚なのか。

関係ない周りの奴ら、ギャラリーも一緒になって手を叩いている。

『なーつーき!なーつーき!』

あっという間に何かのイベント並みに歓声が大きくなっていた。

や、やめんか!

これで失敗したら笑い者だわ!

やりづらい。躊躇する。



すると、理人が俺の方に寄ってきて、耳打ちしてくる。



「んだよ!冷やかしお断り…」

「桃李、見てるかもよー?」

「え…」

「恥ずかしいこと、出来ないなー?成功したら、ポイント高いよー?カッコいいって思われるなきっとー?」



そう言って理人は去っていく。

周りの連中と一緒に手を叩き始めた。



桃李が見てるかも…しれない?

それは…逃げるのも、失敗するのも許されない!

成功したら、カッコいいって思われるな。きっと。




『夏輝、すごくカッコいい…』



…俺、頑張る!(←単純)




一度火がついたら、一気に燃え上がる。

必要のない軽い助走までつけて飛び付き、ウォールに接着しているホールドに次々と手やら足やらかけて、てっぺんを目指す。

まるで蜘蛛男のように。



桃李からの『カッコいい』欲しい…!



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