王子様とブーランジェール
その小さくて温かい手を離さないまま、キュッと握る。
すると、桃李が体をビクッと震わせた。
「あ、あのっ…わわわわ…」
顔が真っ赤になって、目がうるうるになっていた。
「逃げないとわかってても、離さない」
「あぁぁぁ…」
ずっと、握っていたいんだよ。
「…あのさぁ」
「は、はい…」
「さっき言ってた…何年間もずっと、俺がおまえが好きだったって話…信じられない?」
「え、あ…」
周りをキョロキョロと見回し、「うぅぅ…」と俯いている。
…だろうな。
「信じられない」とは、はっきり言えないだろうな。
わかってる。
その反応は正しい。
「…でも、本当だから。それ」
「ほ、ほんとうって…」
軽くあわあわとしている桃李を見て、頷く。
本当にビックリしてるのか。
それとも、やはり信じられないのか。
いや、どっちだろうが、話は続ける。
手は、握り続けたまま。
この、小さな手…。
「…おまえがこっちに転校してきて、間もなく好きになったから、約5年と半年」
「…え?」
ビックリ顔のまま固まっている。
やはりそこは驚いたか。
「初めてパンダフルに行って、おまえの焼いたクロワッサンを食べた時…」
思い出すと、鮮明に蘇る。
あの時の桃李の笑顔と。
胸打った、初めての感覚と。
「美味いパン食えて喜んでる俺達を見て、喜んでる桃李がかわいいって思った…」
その、笑顔と。
温かいクロワッサン。
両方の虜になった。
「俺達と同じ歳なのに、こんな美味いパン焼けるなんてすごい。俺達より体が小さいのに、美味いパン作っちゃうのすごいヤツ、とも思った」
尊敬、リスペクトだってした。
「………」
桃李がさっきとはうって変わって、俺の話を黙って聞いている。
表情にビックリ顔は少し残ってるが。
「…そこからはもう、どんどん好きになっていってさ?…でも俺、おまえといるの、すげえ照れんの」
「て、照れ?」
きょとん顔になった。
これ言うの…こっちもだいぶ恥ずかしいんだけど。
思わず苦笑いが出る。
「…恥ずかしくて、どうしていいかわかんなくなるんだよ。今もだけど」
「い、今も?…え、え…そんな」
「そんな風に見えない、ってか?」
「う、うん…」
「だって、必死に隠してたからな?カッコ悪いとこ見られたくなくて」