王子様とブーランジェール
「夏輝は、カッコ悪くなんかないよ…」
それ…マジな顔で言うな。照れるから。
本当に優しいこと言ってくれるな?このバカ。
「でも、やっぱおまえの前でだけは、カッコつけていたかったワケさ。ドジ踏んだ時も頼ってもらいたかったし、おまえの前でだけは、頼れる強い男でいたかった」
桃李にとって、一番頼れる男でいたかった。
他のヤツには負けたくない。
そんな事も、考えてたな。
「でもさ…これが自分の中でなかなかうまくいかなくてさ。照れ隠しに、つい冷たくしたり、思わず怒鳴ったりしてた」
「でも、私がドジってる時は本当にイライラしてたでしょ」
「………」
こいつ、案外鋭いところ突っ込んでくるな。
「…いや…そうだけど。でも、おまえがドジ踏んだ時はここぞとばかりにでしゃばった。構ってほしかったし…」
「………」
「…だけど、俺の態度はだいぶ最悪だったよな。おまえのこと、だいぶ傷付けてビビらせて。悪かったと思ってる」
「夏輝…」
「ごめん…」
軽く頭を下げると、桃李は首を横にぶんぶんと振っていた。
「夏輝は悪くないよ…私がダメだからだもん…」
…どうして、ここまでも優しいことを言ってくれるんだよ。
俺のこと、あまり甘やかさなくていいから。
じーんとくるだろが。泣けてくる。
すると、キュッと手を握り返される。
「わ、わ、わかんなかった…」
桃李が俯いたまま、ボソリと呟く。
「何が」
「な、夏輝がそう想っててくれたこと…こんな、ダメドジな私に、あ、あり得ない…あり得ないって…」
「あり得なくねえよ。それに、おまえが俺に興味ないの、わかってたし」
「え…」
それは、俺的にはちょっとイタイ過去で。
肝心なのは、ここからだったりする。
「…俺がどんなに好きでも、おまえが俺をそういう恋愛対象として見てないのは、わかってたよ。だから、今日の今日までおまえに好きって言えなかった…」
「え…」
「わかってはいたんだけど…でも、現実フラれて、おまえと今まで通りでいられなくなるのは、嫌だった」
「そ、そんなっ…」
「何回も諦めようとしたんだけどな。その度に彼女作って忘れようともした。でも…結局は、やっぱり桃李が一番いいって気付いて、別れて。そんなバカなことばかりやってたよ」
「………」