王子様とブーランジェール
話をしながら、桃李の顔をチラッと伺うが。
桃李の俯き加減の表情が…何だか難しい顔になっている。
目を見開いて、再び固まっていた。
しばらくそのまま固まっているので、はっきり言って気になる。
「…どうした」
すると、また体をビクッと震わせる。
「あ、あの、その…な、ななな…」
「何だよ。最低なヤツって思ったか?」
「や、やややや…ち、そ、そうじゃ…だ、だって、だって私は…」
「…何?」
「だ、だって…な、夏輝は完璧な王子様で、みんなの人気者で、なんでもすごくて、で、でも、私はダメな人間で…」
「………」
「わ、わ、私は、下僕のような、み、身分で…」
「………」
「な、なのに、私を好きとか、すきとかそんなの、ない、な、ないよ、あ、あり得ない…」
「あり得なくない。俺はずっと好きだった」
「わ、わ、私は、天パで、眼鏡でブスで…ち、ち、ち…」
「天パ眼鏡はとっくにやめてるぞ」
「え、え、や、や、ややややっぱ、さっきのは無しで…」
「無しにしない。いい加減しつこいぞ」
桃李が、急に挙動不審にソワソワし始めて、吃りだした。
久々に、自称下僕発言も出てきたぞ。
無しでお願いします、いつまで引っ張るんだ。
いい加減諦めろ。
無理もないか…。
今まで、自分の中で造り上げた勝手な身分差と、自分に対するイメージに、思考がガチガチに固められてたんだ。
そんな中で、実は…なんて話になったら、頭の中も混乱するか。
桃李だけに限らないんだけど。
この俺の『完璧人間』扱い、やめてほしいんだよな…。
ただ勉強出来て運動出来て、ちょっと器量が良いだけだろ。
そんなヤツ、ちょっと探せばごまんといるはずだ。
桃李との関わりを見ていても、俺を完璧と言えるだろうか。
「…俺は、完璧な人間じゃない」
「そ、そんなことないっ!」
桃李の反論に、首を横にゆっくり振る。
「そんなすごい人間じゃねえよ。強がってばかりで、だっせぇ男だ。おまえに嫌われることにビクビクしてた…ただのチキンだよ」
「ち、ちが…」
…強がってばかりで、高圧的になり。
照れ隠しで、素直になれず。
でも、構ってほしくて。
でも、フラれることにビビって勇気が出なくて。
悪循環を続けていた、ただのチキン。
俺って人は、こんな人。
そういう風に言えたら、とずっと思っていた。