王子様とブーランジェール





「…俺は、わざわざ、おまえがいいんだ」




目の前にいる桃李を、しっかりと視界に入れて、伝える。

ヤツは相変わらず震えていて、視線が下向きになっていた。



まだぶるぶる震えてるなんて、おまえはチワワか。



…だけど、そんな儚く弱いおまえを、放っておけなかった。

ドジり過ぎて、いつか死んでしまうんじゃないかと思ったし。

暴走しすぎて、死んでしまうんじゃないかとも、思った。

守りたい、と思った。



…そんな風に思わせてくれる、おまえがいいんだ。



イラッとさせられるし、ツッコミたくなることもあるけど。

でも、逆に俺はおまえから、貰ってるものもたくさんあって。

それが、嬉しくて。






「俺の一番近くに…傍にいてほしいと思った」





貰ったもの、もっと大事にしたいと思った。





桃李の方を見ると、まだ下を向いてぶるぶる震えていた。

「…おい!」

繋いだままの手を引っ張って、注意をこっちに向ける。

「わ、わっ!」

「…聞いてるか?」

「あ、う、うぅぅ…や、や、やっぱ」

「だから。無しにはしないってさっきから言ってるだろ。本当にちゃんと聞いてろ」

しつこすぎる。

いつまで怯えてるんだ。

俺だって、恐らくもう二度と言えない。こんなガラにもないセリフ。





「…この関係、壊れるのが嫌だとか思ってたんだけどさ。俺、このまま…ってのも、嫌なんだよ」

「え、えぇ…」




関係が壊れるのが嫌だと言っておきながら。

そんな中でも、欲が出てしまう。

その貰ったものは、俺だけのものにしたい。

誰にも、渡したくなかった。





「桃李、おまえとは、幼なじみのままじゃ…嫌だ」





どんな女が周りにたくさんいても。

どんな女と付き合っても。

俺の『隣』は、常に空いていた。

そこに居座れるのは、もうヤツしかいない。







「…俺の隣にはいつだって、桃李、おまえがいい」

「あ…」

「…どの女でも、誰でもない。おまえがいいんだ」







おまえは、格別だから。

そんな想いを込めて、その手を握り直す。






「桃李が…好きです」







そこはもう、おまえしか…いない。





「………」





その時。

手から伝わる、桃李の震えが止まった。





「………」

「…どうした?」






ふと見ると、あのきょとん顔のまま、固まっている。

…え。このきょとん顔。

嫌な予感しかしないんだけど。



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