王子様とブーランジェール
言うことは、もう言い切った。
そのきょとん顔を見守るかのように、反応をまってみるが…。
(…え)
そのきょとん顔の瞳には、涙がぶわっと溢れていた。
固まった表情そのまま、両方の大きい瞳からボロボロと零れている。
次々と溢れては零れ…もう、流れ出ている勢いだ。
きょとん顔のまま、表情崩さずに涙だけボロボロと流している。
ど、どうした…。
何か、恐いんですけど。
そのちょっと恐い光景を、絶句して見守る。
するとそのうち、目をパチッと見開いて、ハッと我に返っている。
目を拭って、指に付いた涙を見てビクッと体を震わせていた。
「あ…あっ。な、なんでっ…」
流している涙に今頃気付いたのか、あたふたしながら目を擦っている。
「な、なみだ…な、何で勝手に…」
しかし、涙が止まらないのか、次第に顔を両手で覆い始めた。
ゴミでも入った?
「うっ…うぅぅ…」
…なワケあるか。
結局、おもいっきり泣いてるだろが。
やれやれ…。
桃李の小さい頭に、手を繋いでいない左手でそっと触れる。
ポンポンと撫で、その手でそっと自分の方へと抱き寄せた。
俺の胸の中に顔を埋めた今も、桃李は「うぅぅ…」と声を漏らして泣いている。
肩が震えていた。
「わ、わ、わかんなかったのっ…わ、わ、私の…『好き』の気持ちっ…」
やっと出た言葉も、声が震えている。
桃李を腕に抱えて、頭を撫でながら。
黙って頷いて聞いていた。
「す、好きなんだって、わかったら…で、でも、辛かった…うぅぅ…」
「…うん」
「で、でも、す、好きなの、止まらなくて…」
「…うん」
「で、でも、言えなかったのっ…」
腕の中にいる桃李が、顔を少し上げる。
その涙でぐちゃぐちゃな瞳と目が合った。
うっ…ドキッとさせるな。
でも、逃げなくていい。
これは、俺のためのモノなんだから。
「わ、私…やっぱり…」
また、繋いだ手をキュッと握られる。
もう、熱いほど温かい。
「やっぱり、夏輝のこと…大好きです」
「………」
…ビックリした。
ひょっとしたらまた、『やっぱり、さっきのは無しでお願いします』かと思った…。
もしそうだったら、いい加減キレそうになっていたけど…。