王子様とブーランジェール




あぁぁ…恥ずかしい。

言ってしまった。ガラにもないセリフ。



でも、けじめとして、これだけはちゃんと言いたかった。

例え、恥ずかしくて死にそうになっても。




「いる…」




桃李の手が添えられている腕の辺りをキュッと握られる。




「隣に…いたいですっ…」




恥ずかしさ全開なのか、顔を赤らめて目をうるうるさせたそのまま、俯いてしまった。




あ…ちょっと。やべぇ。

かわいすぎる…。




その俯いた顔を覗き込む。

近付いた顔に、桃李はビクッとしていたが。

抑えられなくなってしまった俺は、構わず更に顔を近付ける。

すると、またビクッとしていた。

「や、やややや…ち、ちょっと」

「何だよ」

「あぁぁあ、あのっ、したことなくてっ…そのっ…キス」

「………」

さすがの桃李でも、今何をされるかわかったか。




悪いけど、おまえ、初めてじゃないぞ。

おまえは覚えてないかもしれないけど。




「とりあえず目を閉じろ。開けたままがいいならそれでもいいけど」

「え。えぇぇ…」

「いいから早く」

「う、うぅぅ…」

寸前まで顔が近付くと、言われた通りに目をぐっと瞑った。

力むなっつーの。



そっと唇を合わせる。

温かくて、柔らかくて。

それが心地好くて、しばらく合わせたままでいた。




『隣に…いたいですっ…』



…俺の隣にいることを、選んでくれて。

マジで嬉しかった。



昔から、密かに心の奥底で願っていたことが。

今こうして、手に入れることが出来て。



運命、とも思ってもいいだろうか。



「…んんっ…」



キスが長すぎたのか、桃李の口から声が漏れる。

唇を離し、額と額を合わせる。



「もうっ…」



顔が、少しむくれてる。

もうっ…てか?

かわいいだろ。それ。

思わず、顔が緩んでしまった。




そんなかわいい顔を見せられると、何回でもキスしたくなる。

何かを言いたそうな唇を、もう一度、唇で塞いだ。

唐突な二回目は予測してなかったのか、一段と体をビクッとさせている。

唇を離した後は、一層挙動不審になっていた。



「あぁぁ…き、急すぎませんか…」

「キスってそんなもんだから。覚えとけ」

いや、全然違う。

ガセネタを吹き込んでしまった。



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