王子様とブーランジェール




桃李は、『自分のことは、自分が何とかする』と言っていた。

それゆえに、スタンガンに固執していた(…)。



だけど、さっき保健室で言ったように。

そんなものは、要らない。

あんなものが無くたって、俺がいる。

電気は出せないけど…。




…俺が、守る。

その身は、絶対守り抜く。




先ほど消毒綿で擦り過ぎた、その頬に触れる。

ふっくらとして、ぷにっと感触が気持ちいい。



あ。また、やべぇ…。



…と、思った時にはもう、その頬にキスしていた。



唇が触れた瞬間に、桃李は「ひゃっ!」と悲鳴をあげる。

「ま、また急にっ…」

「こんなんでいちいち悲鳴あげてたらキリがねえっつーの」



そして、耳元で囁くように、ボソッと伝える。

心に決めた…決意を。





「…絶対、守ってやっからな」






は、恥ずかしい…。



なぜか急に照れ臭くなってしまい、その照れ隠しに桃李の細い体を、両腕でギュッと抱き締めてしまう。

「あぁぁ…もうぅ…」

桃李の呻いている声が聞こえるが。

もう、そのまま抱き締め続けた。



温かいし、柔らかい。

細くて、壊れそうだ。



だからこそ、決意は強く。



しばらく…いや、ずっと離さないから。

だから、傍にいろよ?



何があっても、すべての敵からおまえを守る。



俺の隣にはいつだって、おまえ。

愛情いっぱいのパンを焼いてくれるだけじゃなく。

俺を激アツにさせてくれる、いろんなモノをくれるブーランジェール。










「い、いつまで…ギュッとしてるんですか…」



腕の中の桃李から、か細い声が聞こえる。



「苦しい?…そんなに力入れてないけど」

「やややや…そういう意味じゃ…」

「…じゃあ、俺の気が済むまで」

「えぇぇ…」

「…何だよ。嫌なのか」

「い、い、嫌じゃないですけど…」

「じゃあいいじゃん」

そう言って、今一度強く抱き締め直す。

「やややや…そうじゃなくてっ…」

「………」


なんだなんだ。


「…ガタガタ言ってると、もう一回キスするぞ?」

「…えっ!」



脅しにそんなことを言ってはみたが。

これ以上、そんなことをしたら、俺自身がそれだけじゃ済まされなくなる…。

顔が真っ赤になってあたふたとしている桃李を見ながら思う。

かわいいな…。



その時。

バタンと店のドアを開く音が、鈴の音と共に聞こえる。



だ、誰か来た…やばっ!


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