王子様とブーランジェール
この姿を誰かに見られるのはまずい!
と、思って何かをしようとしたが。
「桃李ー!」
この声…こっちにバタバタと走ってくる!
そして、何をする間もなく、その誰かは一気に姿を現してしまった。
「桃李!ハイターズ勝った!勝った!…日本シリーズだー!」
そう叫んで興奮気味に現れたのは…先ほど店の前でお会いした人。
桃李の…お父さん。
あぁ…まずい。
そう叫んで登場したおじさんだったが。
同時に俺達のこの様子を見て固まっている。
だろうな…。
自分の仕事用の椅子に。
自分の可愛い一人娘を膝の上に乗せて、痴漢のように抱き締めている輩。
そして、その輩はなぜか自分の長靴を履いている…。
「…お、お父さん?!あ、あわわ…」
桃李もその存在に気付き、慌てて起き上がる。
その表情は何とも言えない、真っ青なツラ…。
「あ、あ、いや…ハイターズ勝ったから、桃李に教えてあげようと思ってさ…」
おじさんも気まずそう…。
だよな。
クライシスしちゃったら、こんなもんだよな。
「あ…桃李、なっちゃん、ごめん…」
あぁ…謝らないで。
謝るのは、こっちでしょうよ。
お義父さん、ホントにすみません…。
勝手に長靴も履いちゃって…。
あぁ…。