王子様とブーランジェール
しかも、何回もキスしたり、ハグしたり。
ちょっと前までは、傍にいるだけでやられていたというのに。
ゾーン状態って、こんなことまで出来るんですか。
開き直りって恐い。
そうだ、ピンク。
また桃李とキスしちゃったんだよ。
しかも、三回もだぞ…。
えへへ…。
ギュッとしたら、温かくて柔らかかった。
げへへ…。
ピンクは「きゅぅぅ…」と、言いながら、俺の懐に入ってきた。
畜生にしか本音を明かせない、この切なさ。
だって、他の誰かに「えへへ…」とか「げへへ…」なんて言えるはずがない。
一応、キャラ崩壊は恥ずかしい。
それから、何回もその事を思い出しては、布団の中で恥ずかしくなったり、一人怪しく笑ったり。
その度にピンクをぐしゃぐしゃに撫でまくって、なかなか寝付けなかった。
あぁー。
明日起きたら『全部、嘘ー!』だったら、どうしよう。
俺、死ぬわ。
…しかし、死ぬ必要はなかったとホッとさせられるのは、明日。
一悶着起きてから。
いつもの朝練を終えて、着替えて更衣室を出る。
「…あっ」
「あ」
出たところ、偶然バッタリ出くわした。
姿を目に入れて、一瞬ゾクッとする。
「あ…久しぶり、竜堂くん」
そこには、今ちょうど登校してきたのか。
最近、学校では見かけなかったけど。
出くわすには気まずい人がそこに…。
「あ…お久しぶりです」
一応、先輩なので頭を下げてしまう。
お目にかかるのは、あの事件以来だった。
姿カタチ、見た目は全然変わっていないけれど。
ツンとしているのも変わらずだが、よく俺に向けていた媚びやあの猫なで声は一切ない。
嵐さん…。
「………」
「…あ、あの」
お互い何を話したらいいかわからず、無言で黙っていたが、先に口を開いたのは、嵐さんの方だった。
「…この間は…悪かった、わね」
そう言って、またしてもフンと顔を背ける。
…ったく。
猫なで声が無くなったのはいいが、謝罪しているはずなのに偉そうなのはなぜなんだ。
相変わらずだな。やれやれ。
「…ホントですよ。それに謝る相手、間違ってませんかね?」
俺の返答に、嵐さんは体をビクッとさせて、明らかに動揺している。
ムッとした表情で「…小生意気ね!」と、腕をバシン!と叩かれた。